池田
加藤先生、本日は、人獣共通感染症の重症熱性血小板減少症候群、SFTSについて質問が来ているのですけど、これはどのような疾患なのでしょうか。
加藤
この病気は、病名が非常に長いですけれども、略称でSFTSと呼ばれている新しい病気です。新興感染症と言ってよいかと思うのですけれども、2011年に中国で初めて報告された病気です。病名からわかりますように、発熱性の疾患であるということです。病原体をSFTSウイルスと呼びますけれども、これがマダニによって媒介されます。人だけではなく動物もかかり、特にネコなどでは重い症状が出ることがわかっています。非常に致命率も高くて、特に高齢者で死亡例も少なくないという特徴があります。
池田
動物にも人間にも感染するということなのですけれども、マダニというのはどのような形でこのウイルスを媒介するのでしょうか。
加藤
吸血のときにマダニからこの病原体が注入されるというメカニズムになります。マダニ自身は動物からウイルスをもらうと考えられていて、ウイルスを増殖させる動物として、例えばタヌキやアライグマのような動物ですね。中山間地などで、最近ですと動物による被害というのはクマなども含めて話題になっていますけれども、そういった野生動物がウイルスを増やして、それによってマダニにウイルスが伝播され、そのマダニに吸血された場合に感染をするという疾患だと思います。
池田
ということは、先ほどのアライグマとかタヌキ、これはあまり症状がないということでしょうか。
加藤
おっしゃるとおり、ほとんど症状が出ないとされています。アナグマでは死んでしまったという報告もありますけれども、無症状の野生動物がウイルスを増やしていって、それによって人にも病気が広がってきているということがいえるのではないかと思います。
池田
そういうことなのですね。そういった動物もマダニが吸血して、マダニの中にウイルスが入ってきますよね。一方で、人がマダニに刺されるというのはどのような状態のときなのですか。
加藤
現在の日本国内ですと、フタトゲチマダニというのが一番重要ではないかとされています。フタトゲチマダニは春から秋にかけて活動性が上がるということで、そのぐらいの時期に、例えば農作業中にマダニに刺されてしまう。そういったことが感染経路として重要と考えられます。
池田
屋外で作業している、特に茂みに近づくような場合はマダニ対策をしっかりするということなのですね。
加藤
そうですね。やはり春から秋にかけての時期は、忌避剤のような防虫スプレーを使うとか、なるべく素肌を出さないといったことも大事になってくるかなと思います。また、発病したネコやイヌから直接感染することもあり、注意が必要です。
池田
気になるところとしては、やはり症状と診断法なのですけれども、どういったことに特徴があるのでしょうか。
加藤
この病気はなかなか症状だけで診断がつくというものではなくて、最初は発熱、頭痛、あるいは倦怠感といった症状から始まってきます。マダニに刺されてからだいたい1、2週間で症状が出てくると言われています。典型的な患者さんですと、数日すると嘔吐や下痢などが目立ってきて、病状としては発病から1週間ぐらいでピークを迎えます。
ですので、屋外活動をして、その後、発熱が生じた患者さんについてはこの病気を疑ってみるというところが一番重要かと思います。簡易的な血液検査、例えば血球を調べてみると白血球と血小板が下がっているというのがこの病気の特徴になります。あとはCRPですね。発熱疾患ではありますけれども、ほとんど上昇してこないといったことも特徴なので、そういった検査所見でさらに疑っていくというのが次の重要なステップなのかなと思っています。
池田
疑った場合は、どのような検査法をどこに依頼するのでしょうか。
加藤
確定診断は病原体を検出するということになりますけれども、血液が一番ウイルスを含んでいると考えられますので、血液を調べていくことになります。各都道府県の衛生研究所に行政検査としてPCR検査が実施できる体制が整えられていますので、まずはお近くの保健所に連絡をして、SFTSを疑う患者さんがいるというのを伝えていただくのが確定診断の重要なステップになると思います。
池田
そこでPCRが陽性になって確定診断がついたときに、現時点で治療法は確立されているのでしょうか。
加藤
ウイルス疾患の多くは、治療薬がまだないというものが多いかと思います。まずは対症療法とか全身管理がこの病気の治療の基本になります。1、2週間の経過で自然に回復する方も多いわけですけれども、一部重症化しますが、特に高齢の患者さんですが、70代、80代になると、非常に重い症状を示してきますので、そういった患者さんには、2024年に承認をされた抗ウイルス薬のファビピラビルが期待されているところです。
池田
重篤な患者さんになりますと、いろいろな臓器に障害が起こってということになりますが、やはり地域である程度経験のある病院に紹介するということなのでしょうか。
加藤
そうですね。この病気は1、2週間の経過で非常に早く進行していきますので、やはり設備の整った、地域の基幹病院のようなところへ。流行地ですと、SFTSの患者さんを比較的多く診ている医療機関があると思いますので、そういったところに紹介するというのが、患者さんを助けるためには重要かなと思います。
池田
受け入れる施設のほうなのですけれども、ヒト─ヒトの感染というのは今まで報告されているのでしょうか。
加藤
まれですけれども、ヒト─ヒト感染の報告がありまして、日本でも1例報告があります。韓国では、心肺蘇生に関わった医療従事者、おそらく飛沫による感染ではないかと疑われるのですけれども、複数の医療従事者が同時に感染するという事例もあります。しっかりと飛沫、接触感染の予防策をとりながら診療ケアを行うということになります。
池田
ということは、慣れた病院、あるいはどの程度の感染防御までできるかというのがある程度わかっている施設でないと、なかなか治療を依頼するのも難しいということなのでしょうか。
加藤
そうですね。特に1類・2類感染症ですと、感染症指定医療機関が定められていますが、この疾患は4類感染症ということで、必ずしも入院勧告とか措置ということにはならないわけですけれども、感染対策が整ってある程度集中治療もできるような医療機関ということで、専門に診れる施設を各地域で決めていくようなことも大事になってくるのかなと思います。
池田
そういう意味からも、もともと西日本、特に九州で多い疾患とうかがっているのですけれども、最近の疾患の分布はどのくらいの地域まで広がっているのでしょうか。
加藤
もともとは九州、あるいは最初の患者さんというのは山口県で見つかっているのですけれども、四国とか中国地方が多かったのですが、現在は東日本のほうに患者さんの発生地域は拡大しています。特に2025年は北海道、あるいは関東の栃木県や茨城県で患者さんが報告されたということで、どうも東日本のほうに徐々に拡大しているのではないかと言われています。
池田
拡大しているということは、今まで全然患者さんを経験したことのない地域もある程度用意をしておかなければいけなくなるということですね。
加藤
そうですね。北海道で患者さんが出たとなりますと、もう全国の問題という気がしますので、各地域で、どういう患者さんにこの疾患を疑って、行政と連携して検査を行うか。新しい抗ウイルス薬も含めて、最新の治療をどのように施していくかということを、各地域でより真剣に考えていく必要があるだろうと。私どもの研究班でまとめている診療の手引きが厚生労働省を通じて周知されていくと思いますので、ぜひそういうものも活用していただければと思います。
池田
うかがっていてすごいなと思ったのは、もう他人ごとでは済まされなくなってきているということですよね。
加藤
そうですね。もう東日本も。私も千葉で診療していますけれども、いつ患者さんが発生してもおかしくないのかなという気持ちでやっています。ぜひ今まで患者さんが出ていない地域でも、白血球、血小板が落ちて、CRPの上がらない高熱の患者さん、特に高齢者の方がいた場合には、SFTSという病気を疑って、診断につなげていただきたいと思います。
池田
どうもありがとうございました。