ドクターサロン

山内

平山先生、よろしくお願いいたします。まず先に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症年齢は比較的広範囲と考えてよいでしょうか。

平山

そうですね。もともと60代、70代ぐらいの発症が多いとされています。

山内

高齢者は、昔から頻度としては高いとみてよいのでしょうか。

平山

一部、家族性で若い方もいらっしゃいますけれども、基本的には高齢の方のほうが発症が多いと思います。

山内

最近は高齢者が増えていますが、ALSの発症に関しては、多少パターンが違ってきたことはありますか。

平山

そうですね。やはり高齢の方が増えて、80代とかでも発症する方がいらっしゃって、どうしても年齢的な筋力低下との鑑別がなかなか難しくてという方もいらっしゃるかなと思います。

山内

まさに質問のように、高齢者のフレイルとどう鑑別したらいいか。一つに、私たちはメディアなどでALSの進行した例しかあまり見ていなくて、初期はお目にかからないというところがありますので、本日はその辺りを教えていただきたいわけです。この質問にありますが、初発、初期症状の辺りからご解説願えますか。

平山

フレイルと申しますと、わりと全体的な筋力低下というところが多いかなという印象なのですけれども、ALSの場合は、局所的に症状が出てくる可能性があると思います。病型が幾つかあって、タイプによっては確かに四肢から出るものもあるのですが、多くは左右差があったり、一肢から出るとか、そういったタイプが多いと思います。下肢、上肢といったところから出るとか、舌や呂律障害などの球症状、あとは呼吸筋から出るタイプもあります。

山内

比較的、局所的に発症していて、左右差があるケースも多いということで、これが進行して全体に行くわけでしょうか。それとも局所がどんどん進行していくという感じなのでしょうか。

平山

病態としては連続性がありますので、絶対ではないのですけれども、例えば右の上肢から発症したら、次は左の上肢に出るケースが多いです。その後、上のほうに進めば、呂律や呼吸筋に来る可能性もありますし、下肢に出るとしたら、左の下肢よりも右の下肢に出ることが多いと思います。そのように波及するような形で進みますね。

山内

意外になかなか独特なパターンなのですね。

平山

そうですね。近いところでというところで。

山内

フレイルは、基本は筋肉が落ちていくわけですが、ALSの場合はやはり脳神経、神経方面の病気が……。

平山

そうですね。おっしゃるように、首から上の症状はたいへん大事かなと思います。例えば舌が萎縮して、呂律が回らなくなってきて手足が全然大丈夫というケースはフレイルでは少ないのかなという印象なのですけれども、ALSの場合は呂律が回らなくなってきても手足は動いて歩けるという方もいらっしゃいます。そういう方は舌の萎縮ですとか、線維束性収縮という舌のピクつき、筋肉のピクつきみたいなものが大事な所見になってくると考えます。

山内

独特な所見があるということですね。実際、神経ならではのほかの所見、例えば反射とか、その辺りも少し教えていただきたいのですけれども。

平山

ALSの特徴としましては、中枢側の運動神経(上位運動ニューロン)の徴候と末梢側の運動神経(下位運動ニューロン)の徴候の2つが変性してしまうという運動神経の病気になりますので、上位運動ニューロンの所見として、腱反射が亢進したり、あるいは病的反射、バビンスキー反射とか昔、もしかしたら学生のときにやられたかもしれないですけど、そういったものが出たり、そういう上位運動ニューロン徴候が出ます。フレイルではそういう点はおそらく出ないのかなというところです。

山内

それは大きなポイントですね。

平山

そうだと思います。

山内

やはり経過もだいぶ違う。フレイル系はゆっくりゆっくり着実に進むことが多いと思いますが、ALSはもう少し早いとみてよいですか。

平山

はい。約90%の方が5年以内にはかなり進行した状況になってしまう、その点はフレイルとの鑑別の点になるのかなとは思います。

山内

最初の1年ぐらいで進行は目に見えて進むことが多いと考えてよいですか。

平山

そうですね。特徴として少し遅いタイプもあるのですけれども、基本的には進行は早いと考えていただいていいと思います。

山内

そうしますと、一番最初に来て、ちょっと疑わしいなと思ったときには、筋力の状態をチェックしておく、記録に残しておいたほうがいいなというところもあるかと思いますけれども、それはいかがでしょう。

平山

客観的な数字として残す分には握力とかは大事だと思いますし、徒手筋力テストがとれる方でしたら、大関節の筋力の屈曲・伸展の筋力をとっていただく。あるいは、ピンチ力を測る器械もあるのですけれども、そういうものをお持ちの方はピンチ力を測っていただくと、客観的な数字を残せると思います。

山内

専門医でない場合はなかなか難しくて、簡単なもので握力計がありますけれども、あれはあまり役に立ちませんか。

平山

いいえ、たいへん大事だと思います。握力計は僕らも通常のALS診療でよく使っていますので、ぜひ活用していただければと思います。

山内

そういったもので何か記録を残しておいて、少し疑わしい場合は半年後とかに来ていただいてチェックするというのも一つの手ということですね。

平山

そうですね。

山内

ほかの所見で、フレイル以外のもので、我々がよく鑑別上注意されているのに手根管症候群がありますね。これが意外に紛らわしいことがあるということがよく話題になりますが、いかがでしょうか。

平山

手根管症候群は正中神経の障害ですけれども、ALSは、やられやすい筋とやられにくい筋があります。例えばAPB(短母指外転筋)と長母指屈筋で見ますと、ALSは比較的APBのほうが障害されやすいというところがありますので、Split hand plusという名前が一応ついています。ほかにもSplit handといって、第一背側骨間筋と小指外転筋では、第一背側骨間筋のほうがやられやすいとか、特徴的な筋肉の萎縮や筋力低下が出ることがあります。

補足として、手根管症候群も長母指屈筋はやられないですが、しびれとか感覚の症状が出ることが多いと思います。ALSは運動神経の病気ということで、感覚の障害が出づらいというのも一つのポイントかなと思います。

山内

手根管症候群では、母指球筋が萎縮することが有名ですが、同じようなものがあるのでしょうか。

平山

そうですね。母指球にはいろいろ筋肉があるとは思うのですけれども、ALSにおいても、そこは痩せることは痩せるかなとは思います。

山内

この辺りは少し難しいケースも中にはあるということでしょうか。

平山

そうですね。なかなか鑑別が難しいケースもあるかなと思います。

山内

実際に先生方が最終的に診断を下されるときには、どういった手段を用いられていますか。

平山

診断基準的にも針筋電図がたいへん大事な検査になっていますので、ご紹介いただいた際には針筋電図を施行しまして、下位運動ニューロン障害を評価するということになります。

山内

早期から異常は出てくるものですか。

平山

はい。比較的、例えば線維束性収縮という筋肉のピクつきみたいなものも、患者さんがあまり感じられていない部分も針筋電図で出るケースもあります。あとは微小な、神経から制御が外れたような脱神経所見というのも、患者さんの筋力低下の訴えがない筋に出ることが多いです。

山内

こういった手段を用いますと、かなり早期からわかるということはあり得るのでしょうか。

平山

診断の遅れがALSの治療薬の開始の遅れにもつながるということで課題となっているケースもありまして、今は診断まで平均12~14か月ぐらいかかるといわれています。

山内

そんなにかかるのですか。

平山

そうなのです。そこが場合によって、ケースバイケースですけれども、早い方でしたら半年ぐらいから針筋電図で診断できる可能性はあるかなとは思います。

山内

本日お話ししていただいた辺りの、特別な所見をきちっと診て、早期診断に結びつけていきたいというところですね。

最後に、ALSの最近の話題がありましたら、少しお聞かせ願えますか。

平山

診断に関しましては、2020年に診断基準の見直しがありました。今までは上位運動ニューロンの所見も入るようにしていたのですけれども、それだと、下位運動ニューロンだけが出てくるタイプの方もいらっしゃって、先行してそっちが先に出てくるせいで診断が遅れてしまうということで、それによって特異度は高かったのだけど感度がちょっと低いという診断基準が使われていました。そこで、下位運動ニューロンだけでも診断できるGold Coast分類というものが2020年からは出てきまして、診断の感度が上がっています。特異度は多少下がるのですけれども、早くからALSを診断していこうということです。

あとは、ドラッグ・ロスというのが有名ですけれども、日本は遺伝子の変化が検出されないタイプのALSには使える治療薬が3剤あり、ALSにおいては、実は世界の中では日本が一番使える薬が多いという状況ですので、そういった治験のほうも進めて、より多くの患者さんに薬を届けられればいいかなと考えています。

山内

ありがとうございました。