ドクターサロン

池田

神野先生、本日は地域医療が抱える課題という話で質問が来ているのですけれども、地域医療と言いますと、だいぶそれぞれの地域で違いがあるとは思いますが、今、地域関係なく問題になっているのはどのようなことでしょうか。

神野

以前は2025年問題と言われて、75歳以上の後期高齢者、団塊の世代がすべて後期高齢者になるということが問題だと言われていましたけれども、もう2025年を過ぎてしまいましたので、これからは2040年に向けてということになると思います。

日本全国で一番大きな課題は、若者が減って、高齢者の中でも85歳以上高齢者がこれから急増してくるというフェーズに入ってくる。65歳以上高齢者という話からすると、もうそんなに増えないのですよね。85歳以上が増える。さあ、この世の中をどうするのですかということになると思います。

85歳以上になると、厚生労働省の資料によりますと約60%が要介護者であるということ。要介護ということは、病院、クリニックには通えない人たちですよね。自分で通えたら要介護になりませんので。そういう方がこれから非常に増えてくるという世の中。これにどう対応するのかというのが2026年以降の私たちの危機感でもあり、その対策をやらなければいけないということになると思います。

池田

一方、若者が減っているということは介護するほうもいなくなって、それで患者さんを病院やクリニックに連れて行く人もいなくなるということですね。そういった場合に、患者さんたちの生活パターンはどういうイメージをされているのでしょうか。

神野

まず、85歳以上の方々の入院病名を調べてみると、誤嚥性肺炎や心不全、あるいは尿路感染、胆管炎といった、良くなったり悪くなったり、寛解再燃を繰り返すような病気がたくさん増えてきます。そういうことになると、私たち病院というのは「病の院」だったわけですけれども、病気を治して、はい、さようなら、お元気でねというわけにはいかなくなるのではないかと思っています。

繰り返し病名の方がたくさんいらっしゃるとするならば、退院した患者さんに対して私たちが関わりを持つ必要があるし、また戻ってくる。そうすると、医療や介護だけではなくて、健康とか生活支援というところに我々が関わっていかなければいけないことになってくるのかなと思っています。

池田

今、高齢者の方は独居生活の方も多いですよね。その方に生活指導といっても、うまくいかないようなイメージがあるのですけれども。

神野

地域によって密度が違うと思いますけれども、その地域にいらっしゃる方、私たちが生活支援をするというよりは、地域の中で生活支援をしている方々と私たちがコラボレーションをするということが重要だと思います。自助、公助、共助、互助という言葉がありますけれども、私はこれに商助(しょうじょ)、商売の方も私たちと一緒になって、これからの高齢社会を一緒に回していくことが必要なのかなと思っています。

85歳以上の方が増えると、先ほど言いましたように、要介護者も増えてくるわけです。将来推計におきましても、救急車の需要というのは、例えば今おっしゃった独居老人の方が急に具合が悪くなった、自分では行けない、夜タクシーもなかなかいない、そうしたら救急車を呼ぶしかないわけですよね。あるいは、在宅医療の需要も非常に大きくなってくるだろうと予想されますので、それに対してどういう体制を今のうちにつくっておくかということがとても重要だと思っています。

池田

一方、病院、クリニックの先生方も高齢化が進んでいますよね。

神野

そうなのですよ。私は石川県七尾市という、能登で病院をやっているのですけれども、七尾市医師会に入会した新規開業というのは、ここ十何年間いませんね。ということは、今いる方々がそのまま年を取っていく。それから、クリニックの開業の先生方のご子弟が医学部へ行って医師になったという話もたくさん聞くのですけれども、能登へはほとんど戻ってこないという状況で、医師そのものも高齢化していくということになりましたね。

池田

そういうことをまとめて考えますと、逆に、病院、クリニックと患者さんたちの住居地、この物理的距離を縮めるしかないですね。

神野

おっしゃるとおり、私は、集住、集めて住むということがこれから特に人口減少地域の地域医療には必須だと思っています。皆さんが寄せて住まわれる住居の周りに病院がある、あるいは病院の周りと言ったほうがいいかもしれませんけれども、病院や診療所、介護施設だけでなく、いろいろなお店もある。その集約化した所に高齢者の方も住んでいただくというのがとても重要だと思います。高齢者の方もそのほうが安心だし、そこにあるお店にしても、お客さんがいないと成り立たないわけです。高齢者の方はかすみを食べて生きているわけではないので、いろいろな消費があるはずです。そういった意味では病院もクリニックもお店も非常にウィンウィンになるのではないのかなと思っています。

池田

一方、能登もそうだと思うのですけれども、震災後に仮の住宅を造るにしても、高台とか、ちょっと離れた所に造っていますよね。

神野

市や行政に対して「何でそんな所に造るの」と聞くと、土地が空いているからとか、土地収用が楽だからということで、高台とか廃校になった中学の跡地とか、そんな所に災害復興住宅を今造ろうとしているのですけれども、私が強く言っているのは、街中の市役所の前、病院のそば、駅のそば、いろいろな商店街のそば、そこに住まわせようと。場合によっては、そういった災害復興住宅の1階部分をお店、2~4階は住居といったところに住んでいただくということが、高齢者にとっても安心ですし、街全体の繁栄といいますか、活性化にも重要なことになるのではないのかなと思っています。

池田

近く、早くというのがやはり基本ですので、そういう意味ではお互いの利便性の良い近距離に、患者さんも一緒に住んでいただくということですよね。

逆に今、高齢者一人で山奥に住んだりしている方がいらっしゃいます。こういった方は、現時点ではどのように通院されたりしているのでしょうか。

神野

今はまだいろいろなサービスがあるわけですよね、ヘルパーさんがいたり。だけど、先ほど先生がおっしゃったように、お世話する人がいなくなる世の中にこれから突入していきますので、一人で何でもできる、自分で車に乗ってどこか行ける、電気も起こすし、水も山から汲んでくる、自給自足する、そこまで覚悟をお持ちの方はどうぞ。そこまで私たちは自由を束縛するつもりはないですけれども、ただ、いろいろなサービスをお願いしますと助けてくださいとおっしゃった時点で、やはりある程度覚悟を持って、麓に下りてきて、そして集まった所に住んでいただく。そういう日本をつくらないと、これからたいへん厳しくなるのではないのかなと思っています。

池田

もう覚悟を決めて、みんなと一緒にいようよということですね。

神野

そうです。一人で、犬としかしゃべらないというのに比べれば、いろいろなコミュニケーションもとれますものね。今、私は全日本病院協会の会長ですけれども、私たち病院もこれから、病気を治してさようなら、お元気でねというわけにはいきませんよと。そういった方々と真っ向から向き合わなければいけないということで、繰り返しますけれども、やはり健康とか生活支援という、そういうプレイヤーと一緒にコラボレーションしていく体制が必要なのではないのかなと思っています。

池田

なるほど。最後に、またうかがいますけれども、医療サイド、介護サイドも高齢化して、どんどん人口も減ってくると思うのですけど、これに対して何か方策といいますか、イメージはお持ちなのでしょうか。

神野

医師はやはり偏在という話がありますし、今はなかなか看護師のなり手がいないといった所もあります。地域で、地方で無理やり縄を付けて引っ張っていくわけにいきませんので、そこでいかにやりがいを持っていただくかということになると思います。いわゆる僻地診療も、死ぬまでずっとそこにいろというと、なかなか難しい方もたくさんいらっしゃる。でも、これはお互いさまですので、交代制というのもあるかもしれませんし、人生のある時期にそういったところの手助けをしていただくといったようなことも必要ですし、そういった方の誇りをくすぐるような仕組みも必要なのかなと思います。

池田

一方、地方に来る若者にも何とかいてもらいたいということなのですけれども、そういった集合住宅でもそうなのですが、おそらく一番患者さんと直接関わる方というのは介護関係の方が一番多いと思います。こういう方のモチベーションを上げるために、先生は何か言葉がけとか、そういうことはされているのでしょうか。

神野

今、全日本病院協会としても使っている言葉でATM、みんなで銀行に行こうじゃなくて、「明るく、楽しく、前向きに」です。これはすべての医療職あるいは介護職が明るさがないと、暗いところでは、患者さんも皆さん、嫌ですよね。確かにつらいことがいっぱいあるのです。でも明るく楽しく前向きに行くという、その明るさがもしかしたらいろいろな問題、課題を解決してくれるのではないのかなと私は気楽に考えているところがあります。

池田

このたび3%ほど医療費が上がるということになっているのですけれども、こういったお金の使い道というのは、どのような方向性が良いのでしょうか。

神野

これは私の全日本病院協会の会員さんにも申し上げているのですけれども、たいへんだから診療報酬が上がった、よかったね、やった、やったと言って、それでまた自分の思いどおりに使っていたらだめだよということなのですよね。せっかく今の政府が付けてくれたお金ですので、未来へ投資するということが極めて重要ではないのかなと思っています。

池田

先生、いろいろうかがって、近未来的な、あるいは少し遠い未来の医療のあり方のイメージが私、出てきました。ありがとうございました。