ドクターサロン

多田

本日はインフルエンザを取り上げ、菅谷憲夫先生にお話をいただきたいと思います。2025年の夏は例年以上の猛暑に見舞われましたが、厚生労働省によると、2024年よりも1か月程度早くインフルエンザの流行シーズンに入ったようです。これは過去20年間で2番目の早さとのことです。また、2024年から使えるようになりました新しいワクチンも利用しやすくなったと聞いています。先生にお話しいただけることを心待ちにしていました。まず先生にはインフルエンザの基本的概念を教えていただきたいと思います。

菅谷

インフルエンザウイルスにはA型とB型の2種類ありますよね。そしてA型にはH3N2とH1N1pdm09という2つのサブタイプがあります。H3は1968年の新型インフルエンザ、A香港型というものです。2009年の新型インフルエンザはH1N1pdm09といいますけど、その2種類があります。B型は、以前はビクトリア系統と山形系統があったのですけど、今は山形系統は消えてしまって、ビクトリア系統だけになっていて、今、はやっているのは以上3種類です。

感染経路は、インフルエンザは接触感染が一つあります。手指から移るのですね。もう一つは、やはり主体は喉や鼻からの飛沫感染です。大きな流行があるときは、時にはいわゆる空気感染もあると思います。

流行時期は、12月から1月に普通はA型インフルエンザが出て、2月からB型がはやって3月か4月まで続くというのが普通なのですけど、最近は、コロナの流行で2年間インフルエンザの流行はなかったのですよ。2020年から、だいたい時期とすると3年間ぐらいなかったのですね。それでみんなインフルエンザの免疫が落ちているということもあるし、今インバウンドで海外から人が多く来るので、それで2025年は早めに流行が始まっていますね。昔の流行期間とちょっと変わっていますけど、そろそろ正常化してくるのではないかなと思っています。

多田

ワクチンも早めに行ったほうがいいということでしょうか。

菅谷

そうですね。基本的にはワクチンも早めに行ったほうがいいです。今少しずつはやっているのが、本当に大きな流行になるのか、途中で小さくなるのかわからないのですけど。

それから、潜伏期は1日か2日で非常に短いです。インフルエンザの症状は先生方もよくご存じのとおり、全身症状が強いのが特徴です。頭痛や腰痛あるいは高熱、そういう全身症状が強く出て、全身倦怠も強いですね。熱なんかそろそろ収まってくる頃から咳や鼻の、いわゆる風邪症状を伴ってきます。ワクチンは今言った3種類の混合ワクチンですね。最近までは4価ワクチンだったのですけれども、今3価ワクチンです。

新型インフルエンザは何かというと、今ある、はやっているウイルス以外のウイルスが出ればみんな新型インフルエンザなのですけど、新型インフルエンザは基本的には鳥のインフルエンザなのです。だからA型だけです。B型は実は人のインフルエンザなのです。だから、今警戒されているのはやはりH5N1ですね。あとはH7やH9が警戒されています。

多田

わかりました。インフルエンザがはやってきたということですけれども、未だに年間約1万人の方がインフルエンザ関連で亡くなっているとも聞いています。感染対策についてお話しいただけますか。

菅谷

感染対策は、基本的には飛沫感染に対しては、やはりみんなマスクするのは有効ですね。あと、うがいもよく言われますけれども、うがいは医学的な予防方法としては海外では認められていないです。うがいをしても、インフルエンザウイルスは喉に付くとあっという間に細胞の中に入ってしまうのです。

あとは、接触感染で手指からも感染するので手洗いは有効です。特に、冬にインフルエンザがはやっている時期は酒精綿、アルコール綿で手を拭くのがすごく有効です。インフルエンザウイルスには、アルコール消毒は明らかに有効なのですね。あと、基本的な感染対策というと、どうしてもワクチンということになりますね。

多田

ワクチンの話をしていただくわけですけれども、併せて2024年から利用可能になりました新しいタイプの鼻スプレー型のインフルエンザワクチンについて教えていただけますか。

菅谷

今使っている普通の注射のワクチンというのは、今言った3種類のウイルスを卵で増やすのですね。孵化鶏卵なのです。孵化鶏卵に接種して増殖させて、それを取り出して、そこでエーテルと混ぜるのです。そうすると、ウイルスがバラバラになる。そこで不活化されるわけですね。バラバラにして、その後、しょ糖密度勾配遠心法で中身を分けて、HA(ヘムアグルチニン)の部分と、ノイラミニダーゼの部分も同時に取り出されますけど、それを取り出して、精製してワクチンにするわけです。この不活化ワクチンは1958年ぐらいからずっと日本でも使われていて、基本的には変わっていません。昔のままです。

多田

一般的に使っているワクチンですね。

菅谷

そうです。だいたい6か月からお年寄りまでみんなそのワクチンで。

多田

生後6か月の方から。

菅谷

そうですね。ただし、12歳以下は2回接種ですね。それ以上は1回接種です。これは昔から使っているワクチンで効果も確立していますし、効果は50%の発病防止効果があると。そういう効果ですね。

一方、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは今話題になっているワクチンです。鼻スプレーワクチン。これは弱毒生インフルエンザワクチンですね。このワクチンの本体は生きているウイルスです。生きているウイルス、インフルエンザウイルスなのだけど、その本体は温度感受性株なのです。つまり37度以上では増殖できないのです。鼻は温度が低いので鼻では増殖するけれども、気管とか気管支、肺では増殖できないというところに安全性があるのです。

でも、そのままそれを使っても、感染免疫に関係しているのは、HAとNAのスパイクというか表面の突起なのです。だから、それを毎年WHOが候補株というのを出すのですね、今年はこのウイルスを使いなさいと。ワクチン株といいます。例えば今年はカナダで取れたこのウイルスを使いなさいとかそういうふうにやるので、それに合わせるために弱毒株と候補株のウイルスを一緒に合わせると、遺伝子がそれぞれ入れ替わって、本体は弱毒株だけど、スパイクというか突起部分はWHOの候補株ができるので、それを両鼻腔に噴霧するわけです。

このウイルスは37度以上では増殖しないし、動物モデルにこのウイルスをやっても全然症状が出ないのです。そういう安全なものなのですね。

多田

効果はどうなのですか。

菅谷

効果がやや低いのが問題です。大きな副作用がないのは安心です。生きているウイルスだといかにも副作用が出そうだけど、子どもは軽い発熱と、鼻が詰まってしまうというのはあるのですけど、効果が問題です。日本の治験では、そのときはやったウイルスがA香港型なので、A香港はもともと効果が低いのですけど、それでも28%ぐらいで30%以下だったのですね。

そのとき私は慶應義塾大学の小児科で、不活化ワクチンの効果を見ていましたが、やはりそちらに比べると明らかに低かったです。生ワクチンはやはり1回接種だし、注射じゃないというのは小児科医にとっては大きなメリットなのですね。お母さんたちもやはり子どもを泣かせたくないと思っているでしょうから。そういうのはあるのだけど、問題は効果がちょっと低いのですね。

先ほども言ったのですけれども、効果が低くて、特に治験でやったとき。日本で治験をやってそれで許可されたのですけど、2~19歳未満までは接種しますけど、2歳のところの効果が特に低くて21%ぐらい。しかも統計学的に見て、信頼区間がマイナスになってしまって、有意じゃなかったのですね。だからそういう点に、インフルエンザの専門家とすると、果たして低年齢児にこれを使ってどのぐらい効果があるかというのがまだ検証が必要だなと思っています。

多田

日本は今年は2年目ですから、それをしっかり見ていくことは今後必要だということでしょうか。

菅谷

そうですね。特に低年齢のところはワクチン効果が非常に期待されるところなのですよね。やはり入院しやすいし、日本ではすごく多い、脳炎の障害がありますよね。

多田

そうですね。そういうことで、新しいワクチンが出て、非常にコモンになってきつつあるのですけれども、効果も一緒に検証していくことが必要でしょうかね。

菅谷

そうですね。検証が必要ですね。

多田

実際、インフルエンザに罹患した場合、治療法はどうすればいいでしょうか。

菅谷

治療法は、日本は非常にすぐれた良い方法を持っています。Test and Treatというのですけど、検査して治療しようという意味です。海外からも評価されています。インフルエンザの検査ではいつも鼻に綿棒を入れてやっていますね。あれをこれほど行っているのは日本だけです。海外ではほとんどああいう迅速診断検査は行っていないですね。陽性だったら必ず例えばオセルタミビルとか、ラニナミビル、あるいはバロキサビルを使います。あと注射薬と。

多田

点滴薬もあって。

菅谷

そうですね。点滴がありますね。

多田

重症患者は点滴をするということですか。

菅谷

そうですね。バロキサビルは12歳未満の小さなお子さんには耐性が出やすくて、耐性が人から人に移って、症状も延びるので、感染症学会では12歳未満の小児に対するバロキサビルの投与については、慎重な投与適用の判断が必要ですと出しています。

多田

あと、いっとき騒がれたのですけれども、罹患した子どもが窓から飛び出るということがありましたけど、その辺りはどうすればよいのでしょうか。

菅谷

小児科学会の指導では、発病してから48時間の間はできるだけ子どもを1人で寝かせないで、いつも親が監視することとなっています。それ以降になると、そういう、異常行動といいますけど、ほとんどないです。

多田

解熱剤が悪い影響を出したという話も聞くのですが、その辺りは今どういった。

菅谷

子どもも大人もそうですけれども、インフルエンザの解熱剤には基本的にアスピリンは使わない、それからNSAIDsは使わないことになっています。アセトアミノフェンが一番安全ですね。

多田

わかりました。今本当に流行期を迎えつつあるインフルエンザですけれども、非常に広範なお話をありがとうございました。

付記
日本が昨年9月末にインフルエンザ流行入りしたことは欧米諸国から注目された。英国でA香港型インフルエンザ、A(H3N2)の変異ウイルスが出現し(subclade kと命名)、10年に一度の大規模流行の可能性があるとされ、英国の専門家が2025~2026シーズンの流行を警戒しているが、日本でも、変異ウイルス、subclade kは検出されている。
変異ウイルス、subclade kについては、以下をご覧ください。
日本医事新報
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27627
今シーズンは抗原変異したA香港型インフルエンザに警戒─英国では変異ウイルスが流行し10年に一度の大規模流行か