ドクターサロン

齊藤

本日は喘息について、昭和から令和への進歩・変化ということでうかがいます。

まず喘息の疫学には変化はありますか。

安田

実際に、喘息の患者さんそのものの疫学というか統計というものはなかなか取りにくい部分があり、喘息患者さんの総数はわかっていません。今のところ国内に500万~1,000万人ぐらいいらっしゃるのではないかとされています。

変化ということでいうと、かつては大気汚染のレベルが高い時代がありましたので、そういうものに伴い喘息を発症していた方も多かったと思います。最近は、公害あるいは大気汚染に伴ってというような患者さんは、肌身で感じる意味では少なくなってきていると感じています。

齊藤

喘息の診断あるいは検査にはかなり変化があるのですか。

安田

大きな変化が起こっています。まず大事なことは、喘息という病気がどういう病気なのか、疾患の概念が大きく変わってきました。1990年代ぐらいから、喘息という病気が慢性的な気道の炎症による病気なのだということがわかってきました。それまでは原因がなかなかわからないので、気管支、空気の通り道が狭くなってヒューヒュー、ゼーゼーして息が苦しい病気という理解だったわけですけれども、慢性的な空気の通り道の炎症だということがわかることによって、診断も治療も大きな変化、パラダイムシフトを起こしてきています。

診断に関しては、喘息を診断するというのは、総合的に患者さんのお話だとか、発作のような息苦しさがあるのかとか、一日の中での変動がある、季節変動があるとか、そういう話をすることもすごく大事です。あとは発作中の聴診をすることによって、息を吐いた最後のほうにヒューという音が聞こえるようなときは喘息だということがわかります。ただ、発作中でないときに診断をどうするかというのは簡単ではありません。最近は、肺活量の検査で吐いた息の中に入っている一酸化窒素、呼気のNOというものを見ることによって、喘息らしさを評価できるようになってきました。

また、血液検査でも例えばアレルゲンをしっかり調べるとか、IgEというアレルギーに関わるタンパクをしっかり見ることによって、だんだん診断が体系化されてきている状況であります。

齊藤

画像診断の意義はどうですか。

安田

純粋な喘息の場合、特に胸のレントゲンやCTなどは画像で判断することは難しいです。ただ、慢性的に咳があって、長いこと続いている患者さんでは、CT検査をすると気管支の断面が分厚くなって見えることがあります。そういう方は慢性的な喘息があるのではないかと診断できる場合もあります。

齊藤

1990年ごろから慢性炎症だということで、治療方針が変わってきたということですね。

安田

はい。喘息治療では大きな変化が起こっています。疾患の概念がわかることがすごく大事だったのですけれども、それまでは発作的に気管支、空気の通り道が狭くなる病気なので、とにかく気管支を拡張する、広げるのだということが治療のメインとなっていました。ただ、それが慢性的な空気の通り道の炎症だということがわかってきたので、空気の通り道に吸入薬のステロイド剤によって炎症を収めてあげればいいのだということになってきました。それによって、今までは発作のときに気管支を拡張するという治療だったのが、疾患の概念がわかってからは、吸入ステロイド剤によって発作を予防するのが治療のメインとなってきています。そこが大きな違いなのかなと感じています。

齊藤

以前は急性効果をねらう薬を使っていたということですが、ステロイドの急性効果はどうですか。

安田

発作がひどい場合は、飲み薬のステロイド剤を多めに使うことによって、1、2日でパッと良くなりますので、ステロイドには急性の効果もありますし、慢性的に予防してくれる効果もあります。ただ、飲み薬などで長く使うと、ステロイドによる副作用が問題になってきます。そういう意味では、空気の通り道、気道にまくだけの、少量のステロイドを使って治療することによって、副作用を抑えながら治療することができるようになってきています。

齊藤

疫学的にもかなり変化があるということですか。

安田

はい。喘息の患者数そのものは統計的に難しいわけですけれども、実際に喘息によって亡くなられる患者さんの数は如実に減ってきています。ピーク時は、年間1万6,000~7,000人ぐらいの患者さんが喘息によって死亡されていたと言われていますけれども、現在は年間1,000人程度とされていますので、そういう意味では10分の1以下に減ってきています。

齊藤

治療の考え方はどうなっているのでしょうか。

安田

基本は患者さんの重症度に合わせてステップアップ、あるいはステップダウンをしながら治療していきます。ただ、治療のメインはやはり吸入ステロイド剤になってきます。それを使うことと、さらに気管支拡張薬を合わせた合剤といって、一つの吸入器の中に吸入ステロイド剤と長時間作用する気管支拡張薬の2剤が入っているものがよく使われています。薬としては一つの瓶に入っていますので、それを吸入することで治療ができる患者さんが増えてきています。

その中で重症化してきた場合は、それに例えば抗アレルギー薬を足してみるとか、場合によって、それ以外の吸入薬を足してみるとか、さらにそれでも難しい場合は、先ほどお話しした飲み薬のステロイドを使う患者さんもいらっしゃいます。

これが標準的な喘息の治療薬になってくるわけですけれども、最近もう一つの大きな変化とすると、標準的な喘息の治療をやってもなかなか病状がコントロールできない、重症難治性喘息の患者さんに対しては、生物学的製剤といって、喘息のアレルギー、炎症を起こす鍵となるタンパクを標的とする治療法が開発されています。これを使うことによって、標準的な治療が効かない難治性喘息の方においても、効果を認める症例が増えてきています。

齊藤

生物学的製剤は今何種類ぐらいあるのでしょうか。

安田

臨床上は現在5種類が使えるようになっています。その中から医師の判断に応じて、この患者さんにはこの薬を使おうというのを選びながら使っているのが現状だと思います。

齊藤

使い分けはどうですか。

安田

血液検査である程度わかってきます。IgEというタンパクの量を見たり、血液検査の中の好酸球というアレルギーに関わるものの数字を見たりすることによって、薬を選択しています。

齊藤

ある程度検査データによるのですね。

安田

そうですね。この数値がこうだから絶対これというものがなかなかありませんので、各先生の判断によるところもありますし、患者さんも、ある薬はいまいち効かないので切り替えてみるとそちらのほうがすごく効いたということはあると思います。その辺りは主治医と相談しながらやっていくことになると思います。

齊藤

治療期間はどうして決めていくのですか。

安田

基本的には何か月とかそういうものではなくて、喘息というのは一生抱えていくこともあるような病気ですので、落ち着いて安定しているのであれば、治療をずっとやっていくというようなこともけっこうあると思います。

齊藤

問題は、ややコスト高だということですね。

安田

そうですね。生物学的製剤というのは、あるタンパク質を標的とした、高度な医学が使われている薬になりますので、高コストの薬になります。場合によって、ひと月当たり数万円ぐらいの自己負担額が発生してきます。数万を超える場合もあるかと思いますので、患者さんへの負担はそれなりに大きいのかなとは思います。

齊藤

喘息の考え方も劇的に変わったということですかね。

安田

病気の概念の理解というか、研究が進むことで、この病気はどのような病気ですよということがわかることによって治療も変わってきます。喘息は呼吸器疾患の中でも、ここ10、20年ですごく大きな変化のあった領域なのではないかと考えています。

齊藤

どうもありがとうございました。