大西
花粉症についてうかがいたいと思います。疫学的なことからうかがいたいのですが、以前はそんなに患者さんも多くなかったと思うのですけれども、最近だいぶ増えているようで、その辺りの状況から教えていただけますか。
近藤
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会が10年ごとに耳鼻咽喉科の医師およびその家族を対象としてアレルギー性鼻炎の有病率調査を行っていまして、最新のデータですと、アレルギー性鼻炎全体ではほぼ50%です。ですから2人に1人はアレルギー性鼻炎がある。アレルギー性鼻炎の中で花粉症といわゆるダストアレルギーなどの通年性アレルギー性鼻炎に分けますと、通年性アレルギー性鼻炎は微増なのですが、花粉症がぐいっと伸びているのですね。ですから、この20年ぐらいでかなり増えているということは、データ上は示されています。
大西
なぜこんなに増えているのか、その背景はありますか。
近藤
古典的な理論としましては、アレルゲンの量が増えたということです。戦後に木材資源が必要だと全国的にスギの植林が行われたのですけれども、だいたい杉の木というのは植林して30年ぐらい経つと花粉の量が急に増えてくるということなのですね。ですので、花粉の量が増えてきたピークと、花粉症が発見されて患者さんが明らかになってきた時期というのがある程度重なっています。
もう一つ、わりとよく言われていますのは衛生仮説というもので、生育時から非常に清潔な環境で育つとアレルギーになりやすいと言われています。日本もかなり清潔な環境で子どもが育つようになったと思いますので、その辺りが関係しているかなと思います。
大西
諸外国の状況はいかがでしょうか。
近藤
スギ花粉症というのは基本的には日本だと思うのですが、イネ科の花粉症は、ヨーロッパ、東南アジア、アメリカにもあり、世界中に幅広く患者さんがおられます。東南アジアも、もともとはきれいな生活環境ではなかったと思うのですが、今は西洋的な生活様式に変わりつつあって、すごく増えているという話は聞きますね。
大西
臨床の現場の話をうかがいたいのですけれども、症状もいろいろあるかと思いますが、どのような症候に着目して診療していったらよいでしょうか。
近藤
アレルギー性鼻炎の3主徴といいますと、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、この3つだと思います。ですので、花粉の時期に重なってその症状が出現していれば、かなりの確率でスギ花粉症と診断されると思います。あとは、やはり目の痒みが出るというところがポイントです。例えば上気道炎でも鼻閉、鼻汁、くしゃみは生じるのですが、目の痒みは基本的にあまり出ませんので、私たちも、目の痒みがあるのでしたら風邪でなくて鼻炎でしょうねというようなお話をしています。
大西
スギはやはり春だと思いますが、その後少し遅れてヒノキとか多いですかね。
近藤
そうですね。スギがだいたい4月の中旬ぐらいまでで、ヒノキがゴールデンウイーク明けぐらい。東京エリアではそういう感じだと思います。だいたい4月の後半ぐらいからイネ科の花粉の飛散が始まりまして、実はイネ科の植物というのは非常に種類が多くて、同じエリアでも次々植生が変わっていきます。ですから、同じ空き地なのに、春と秋で違うイネ科の花粉の植物が生えているというのはありまして、結局9月ぐらいまでだらだらといろいろなものが飛び続けると。
その時分から今度はキク科が始まりまして、ブタクサとヨモギですね。それが9月の終わりから10月初めまで飛んで、とりあえず一段落なのですが、実はスギ花粉は11月にまた少し飛びます。
大西
そうなのですか。
近藤
はい。秋のスギ花粉症といって、わりとよく知られているものなのですが、結局、次の年の春に飛ぶべき花粉が、1回寒い日が続いてポッと暖かい日が出ると、春が来たと思って花粉を飛ばしてしまうのですね。だいたい秋に飛ぶ総量が春に飛ぶ総量の10分の1です。ですので、秋にそういう患者さんが多かったときは、翌年は大飛散だと、みんなそういう捉え方をしています。
大西
検査などについてはいかがでしょうか。
近藤
まず耳鼻咽喉科では、鼻の中を覗きまして、下鼻甲介の腫脹があるとか、鼻汁が多いとか、そういうことをまず確認します。鼻が詰まるということで来られた方でも、副鼻腔炎ということもないわけではないので、まず鼻の中の様子が花粉症と合致しているかどうかをポイントにしています。
ご希望の方には、抗原特異的なIgEがあるかどうかを採血して測る。いわゆる皮膚テストとか、抗原誘発テストというのも非常に重要で役立つのですが、なかなか手間もかかることから、最近は血液検査で抗原特異的IgEを測るほうがわりと普及しているかなと思います。
大西
薬物療法についてうかがいたいのですけれども、症状も軽いものから重いものまであったり、鼻がすごく詰まる場合もありますよね。薬の使い分けとかコツはありますか。
近藤
鼻アレルギー診療ガイドラインが2024年改訂されまして、そちらに重症度に応じた花粉症の治療のガイドラインが載っています。どの重症度の方にも、第2世代の抗ヒスタミン薬と鼻噴霧用ステロイドの2つは推奨されているという状況です。それ以外に、例えば鼻閉が強い方ではロイコトリエン受容体拮抗薬を使うとか、そういうものもあります。
非常に重症の方、例えば従来、副腎皮質ステロイドの内服薬が花粉症の時期に必要だった方、そういう方には最近は抗IgE抗体のオマリズマブというものが有効性が報告されているので、こういったものの皮下注射も使われるようになってきています。
大西
治療法も進歩してきているのですね。免疫的な治療法もいろいろ出てきているということですね。
近藤
そうですね。もう一つ、日本では舌下免疫療法というものがあります。従来、減感作療法と呼ばれてきたものが最近はアレルゲン免疫療法と呼ばれているのですが、ずっと皮下注射でアレルゲンを投与するということが行われてきました。これが舌下錠というものができまして、スギのエキスを固めて錠剤にしてあるもので、これを舌下で毎日服用して、いわゆる免疫療法で免疫寛容を誘導する。こういう治療も普及してきています。
大西
治療効果はかなりあるのでしょうか。
近藤
そうですね。即効性がある治療ではありませんので、少なくとも3年間は行うことが推奨されていますが、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイドなどの薬の効果が十分感じられないとか、薬を飲みたくない、薬を飲むことができない、そういう方には喜ばれています。あと、アレルギー疾患の自然史を変える可能性がある、つまり根治療法になる可能性も秘めていますので、私はお子さんにはいいのではないかなと感じています。
大西
小児科の領域はどうですか。
近藤
スギ花粉症は以前は少なくとも小学生以上の病気だと言われていましたが、最近はやはり花粉量が多いためなのかもしれませんが、もっと低年齢の幼児期に発症するスギ花粉症のお子さんも増えてきているとは言われています。
大西
逆にお年寄りはいかがでしょうか。
近藤
例えば小児喘息などというのは大人になると寛解があると言われていますけれども、アレルギー性鼻炎は実は非常に寛解しにくい疾患だと言われていまして、少なくとも20代ぐらいで発症した方が、30、40、50、60と、だいたい鼻炎症状は持ち越すと言われています。ただ、80歳ぐらいになってくると少し症状が弱くなるとも言われていますが、基本的にはなかなか自然寛解はない疾患ということだと思います。
大西
手術療法を行うこともあるのですか。
近藤
そうですね。手術療法は大きく分けると2つありまして、一番普及しているのは下鼻甲介手術というものです。鼻炎で腫脹が起こる下鼻甲介に例えばレーザーをあてるとか、場合によっては表面を少し削るとか、そういう方法で減量して、鼻づまりをよくする治療というのがかなり普及しています。
一方、例えば鼻中隔の大きな弯曲があるとか構造的な問題がもともとあって鼻炎が加わっている方は、構造を改善するような鼻中隔矯正術とか、そういったものも組み合わせて行うことがあります。
大西
ありがとうございました。