多田
分娩管理とは、妊娠・出産に伴う妊婦さんや赤ちゃんの健康を確保し、安全に分娩を行うための医療介入、ケアを指していますが、その内容のあらましは一般医も知っておく必要があります。先生、安全に分娩を行うための医療介入やケアについて基礎を教えてください。
中井
まず、そもそも、日本で出産される方の約20%強は予定帝王切開なのですね。すでに帝王切開を1回受けられているとか、大きな子宮筋腫を取った後だとか、あるいは逆子だとか、いろいろな理由がありますけれども、2割ちょっとの人は予定帝王切開となります。残りの8割弱の方がいわゆる自然分娩に臨むわけですけれども、仮にローリスクだとしても、全体の10%ぐらいは医療介入が必要になるというデータが出ています。ですからその辺を考えて、多くの産科施設では、設備として薬剤や機器はもちろん、オペ室もちゃんと準備しているはずですし、場所によっては助産師、産科医だけでなく小児科医がいるとか、そういった形をとって、様々なことに対応できるようにしています。
ただ、日本で出産する方の70%は一次施設を利用します。中でも全体の46%はクリニックが扱っているのです。ですから、すべての施設に小児科医や麻酔科医がいるとは限らないのですけれども、少なくとも連携をしながら、皆さん、分娩を取り扱っていると思います。そうした中でも日本の周産期死亡率の低さというのは20年以上前からずっと世界一なのです。
多田
素晴らしいですね。
中井
はい。しかも2位と大きく水をあけた断トツの1位なのですね。そういう背景の下で分娩管理を行いますが、まず分娩で重要なのは母体と胎児の状態を把握することです。母体の中で、わかりやすく言うとすれば、分娩の進行ですね。これがよどみなく速やかに進むものであれば、大きな心配はありませんし、医療介入をすることはなく、場合によっては、助産師一人で出産に立ち会うことができます。
一方、胎児のほうは胎児モニタリング、これは分娩監視装置という機械を使って胎児心拍数陣痛図というものを取ります。普通の心電図と違って、心拍数を経時的に記録していく機械なのですけれども、その記録が例えば低酸素状態になる、あるいは低酸素血症になると、様々な変化をするのです。そういった変化はおおむね解釈が決まっており、その解釈に基づき、胎児をしっかり監視しながら、分娩の経過を見守るというのが通常です。
ただ、医療介入をどこで行うかとか、そういったものは、先生方によって多少違いはあります。分娩の進行が滞ってきた、胎児の具合が少し元気がなくなった、などという状態が起きた場合、そのまま分娩が進行して、胎児が元気な状態のまま出産できるかどうかということを予測しなければいけません。ですから、それがかなり厳しいようであれば、オンコールの先生方を集めるとか、それこそ帝王切開も頭に入れて麻酔科医を呼ぶなどということをしなくてはいけないので、その辺の予知力といいますか、それが分娩においては大事だと思います。
多田
実際にうまく分娩したということになりますと、いわゆる正常分娩、この際のケアとしては大切なことはありますか。
中井
まず、母体と新生児の状態を確認します。母体では出血の状態、新生児では呼吸の状態が大切です。新生児の蘇生が必要なければそれはそれでいいのですけれども、昔と違って、今はすぐ沐浴しないのです。低体温というのは非常によくないわけで、生まれた新生児は体から速やかに羊水を拭き取って、タオルなどでくるんで保温してあげるというのが今風のやり方です。そのときにも呼吸の状態、心拍の状態、それから、元気具合ですね、筋の緊張があるかどうか、あとはチアノーゼがないとか、そういったものはきちんと観察して管理しなければいけないというところです。
母親のほうですけれども、出産後というのは、女性のライフサイクルの中で最もメンタルの弱まる時期なのです。この時期に大切なのは、もちろん疲れた体のリカバリーですけれども、明日から始まる子育て、育児に対する姿勢を支援していかなければなりません。母乳の管理だとか、沐浴の仕方もそうですし、様々ありますが、中でも昨今メンタル不調の方が非常に増えています。かつては全体の5%未満でしたが、今は1割程度の方がメンタル不調を持っているのではないかと言われています。特に、マタニティブルーとか一過性に治るものはいいのですが、愛着形成不全みたいな方が増えているのですね。子どもの抱き方がわからないとか、どうやって接していいかわからない。先進的な取り組みを行っている施設では、妊娠中からそういう状況をチェックし、より早期から介入をしっかり行うというようなことを試みていますけれども、今後の大きな課題の一つです。
それから、新生児ですけれども、体内循環から体外循環に変化します。昔、皆さん勉強されたと思うのですけれども、これがやはりたいへんです。へその緒から酸素をもらっていたものが肺呼吸になり、肺動脈は拡張し、卵円孔は閉鎖し、動脈管もゆっくり閉鎖していくという中で、生後24時間ぐらいは非常に急変が多いのです。気がついたら呼吸が止まっていたということもありますから、多くの施設で今、呼吸センサーを使用しています。新生児用のコットのマットに呼吸しているかどうかわかるようなセンサーが付いているものとか、サチュレーションモニターを付けてしばらくは観察することが多いと思います。
その後、2、3日経つと、新生児で多いのは黄疸です。生理的な黄疸が大部分ですけれども、注意しなければいけません。あとは、その頃になってから心雑音が聞こえ出してくるというお子さんもいます。先天性の心疾患は、すべての先天異常の中で最も頻度が高く、約1%いると言われていますから、その辺も十分注意して管理することが必要だと思います。
多田
わかりました。次は異常分娩ですけれども、例えば早産、過期産なども異常分娩に分類されますが、異常分娩とされる症状や状態について、実際、一般臨床医がしておくべきことと管理すべきことについて教えてください。
中井
まず早産、過期産については、いずれもこれは胎児の問題になります。早産だと、当然ながら胎児の未熟性が問題で、特に肺の成熟が問題になるので、場合によっては人工換気や肺のサーファクタントを用いるという治療が必要になります。
一方で、過期産ですが、新生児は100歳以上の寿命があるわけで、分娩予定日を2週間過ぎただけでいけないのだということになるのですけれども、実は問題は胎盤の寿命なのです。胎盤がもたなくなってくるので、例えば酸素の供給が滞ってくるとか、ホルモンが出なくなるという状態になるので、胎児がいわゆる胎児機能不全、昔の胎児仮死といった状態に陥りやすいということなのです。
そのほかの異常ですが、母体ではやはり妊娠高血圧症候群。昔の妊娠中毒症ですが、これはそれだけであればまだ血圧の管理だけでいいのですけれども、子癇発作という痙攣発作を起こすことがあります。これが起きると、母体は無呼吸状態、無酸素状態に近くなりますから、胎児に強烈なダメージが出て、それが原因で脳性麻痺発症ということも十分に起こり得ます。
それから母体のほうで気をつけておきたい疾患としては、胎盤早期剝離という疾患があります。通常、胎児が生まれてから胎盤が娩出されるという順ですけれども、胎児が出る前に胎盤が剝がれ出してしまう疾患です。母体のほうでは当然ながら胎盤が剝がれることで出血も起きます。内出血ですけれども、出血性ショックになることもあり、消費性のDIC(播種性血管内凝固症候群)が発症します。胎児のほうでは、例えば胎盤の3分の1が剝がれれば酸素分圧が3分の1減るようなものですから、胎児機能不全(仮死)、新生児仮死や脳性麻痺の大きな原因になっています。まれなのですけれども、起こると致死的な疾患です。
あと頻度が比較的高いのは、産後の出血です。いわゆる弛緩出血と呼ばれますが、子宮収縮不良によるものです。早剝も子癇発作も同様ですが、こういう母体の緊急事態のときに一番大事なのは、人員の確保なのです。一人で呼吸管理をして、ラインを取って、急速輸血をして子宮を押さえているなどということはできませんので、もし先生方の病院で産科があれば、こんな事件が起こっていたらどうぞ駆けつけていただければと思います。
あと新生児のほうですと、やはり胎児機能不全による脳性麻痺とか低酸素脳症ですね。そういうものの発生を防がなければいけないということで、先ほども話しましたモニタリングは十分に行うというのが肝要かと思います。
日本は高次施設(二次・三次施設)と中小の一次施設の強固な連携により、世界一の周産期死亡率の低さを誇っているのだと思います。ただ、今それぞれに問題が起こっています。一次施設では、分娩数が100万以上あったものが60万台と半減したため、これに呼応して施設の閉鎖や分娩取り扱いの停止が相次いでいます。去年と今年を比べても、100施設の分娩施設がなくなっているのです。そういう中小の施設というのは地域を支える施設でしたので、地域医療が滞るところが出てきてもおかしくはないという状態です。
多田
今のことも含めて、現状と課題について、我々と認識を共有していただければ助かるのですけど、よろしくお願いします。
中井
今、一次施設の話を先走ってしましたけれども、もう一つの問題は高次施設で起こっています。周産期は、総合周産期母子医療センターというのが三次施設、それを補完する地域周産期母子医療センターというのが二次施設、そしてあとの一般病院とクリニックが一次施設と位置付けられています。その要の三次施設である総合周産期母子医療センターには母体・胎児の集中治療室があります。集中治療室の管理料のことは皆さんご存じだと思いますが、現在、全国120の総合周産期母子医療センターのうち20施設で、管理料の算定ができなくなっているのです。
多田
ゆゆしき問題ですね。
中井
はい。大きな理由は人員不足です。ICUですから、必ず医師が1名張り付いていないといけませんが、かつては宿日直許可があるかないかについては問われていなかったのです。でも令和6年の保険改定の際に、働き方改革も始まった年に、ICUにいる医者は宿日直許可を取った医者ではないことという一文が加わりました。結果、夜勤として、勤務として働く人員が確保できず、今20の施設が算定できなくなっているというのが現状です。
多田
今、大学病院も含めた大病院で赤字の病院がけっこうあるのですが、これは国民の人口維持に直結する大事な事業ですからね。
中井
億単位の損失が出ますので、例えば施設全体から見ても、そんな赤字部門に人員は増やせないという負のスパイラルに落ち込んでいって、機能が低下するリスクがあるのです。施設の減少と高次施設の機能低下という問題が今一番懸念されています。
多田
分娩管理という基本的事柄においても大きな問題があることがわかりました。機能の分担を含め、ぜひ我々一般医ができることがありましたら、またいろいろ教えていただきたいと思います。どうもありがとうございました。