ドクターサロン

池脇

便通異常症診療ガイドライン、特に便秘に関しての質問をいただきました。便秘あるいは便秘症は、先生方専門家だけでなく、あらゆる診療科の先生方が自ら治療するというぐらい、頻繁に遭遇する疾患ですが、具体的にどのぐらいの頻度なのか、データはあるのでしょうか。

正岡

診断基準もありますし、お国柄等も違いますが、これまでの各国の報告を見ますと、おしなべて15%から10%ぐらいと言われています。しかしながら、潜在的な、ご本人は便秘症状はあるのだけれども、病気とは認識されてない方もけっこういらっしゃるというデータもあります。

池脇

若い年代だと女性が多くて、高齢になっていくと男性が増えているのかなと。どうでしょうか。

正岡

まさにおっしゃるとおりでして、若い頃は女性のほうが圧倒的に多いのですけれども、年齢とともに男性の便秘も増えてきまして、80歳を超えますと、むしろ男性のほうが女性よりも多くなります。まさに今、高齢化が進んでいますので、本邦でも非常に重要な疾患かと存じます。

池脇

便秘だけれども病院に足を運ばずに、民間療法みたいなもので対応されることもけっこう多いと思いますが、学会がガイドラインを出して、正しく診断・治療するという動きは大事ですね。

正岡

まさにおっしゃるとおりだと思います。

池脇

今回の便通異常症診療ガイドラインですが、2017年に最初のガイドラインが出て6年を経て新しいガイドラインを作成するに至った背景について教えてください。

正岡

皆さまご存じのとおり、便秘症の治療というと、以前から、酸化マグネシウムやセンノシド、ピコスルファートなどの刺激性下剤を中心にした治療が長年行われてきたのですけれども、2012年にルビプロストンが保険適用になりました。それ以降もさらに新しい機序の便秘の治療薬が数多く出てきましたので、そこを整理する意味で今回のガイドラインが策定されました。

池脇

診療ガイドラインは便秘や慢性便秘症の定義から始まって、最終的には治療までということですけれども、定義に関しても改定されたと聞いていますが、どういうことでしょうか。

正岡

定義につきましては、2017年のガイドラインも、2023年のガイドラインも、大元は国際的な診断基準であるRome分類を基に作られています。その中で文言の整理がなされまして、排便中核症状と排便周辺症状という言葉が今回のガイドラインでは導入されました。排便中核症状というのがいわゆる排便回数や便の硬さになりまして、排便周辺症状というのは、いきみや残便感、直腸肛門の詰まった感じの有無、排便時の用手的な補助の必要性、そういった症状は排便周辺症状ということで整理されています。

池脇

今言われた中核症状が2つ、そして周辺症状が4つ、合計6項目のうち2項目以上満たすと、便秘症と診断していいわけですね。

正岡

そうですね、はい。

池脇

便秘とは、便が停滞している状態を表すのですか。

正岡

はい。まさにおっしゃるように、便秘そのものは状態なのですけれども、便秘という状態が慢性的に続きまして、生活に影響を及ぼすようになってきますと、慢性便秘症という病態として対処が必要になってきます。

池脇

慢性便秘症が、予後に影響したり心血管疾患にも影響するとあります。そういう意味では、非常に大きなことですね。

正岡

そうですね。おっしゃるとおりです。過敏性腸症候群ですとか機能性ディスペプシアといった機能性消化管疾患と呼ばれる疾患の多くは、生命予後には影響せず生活の質に影響する疾患なのですけれども、慢性便秘症につきましては、今おっしゃったように、心血管イベントも増えてきますし、生命予後にも影響するということで、より対処が必要だと言われています。

池脇

慢性便秘症の分類を見ますと、基本的には一次性の機能性便秘症がメインですが、二次性、中には大腸癌による便秘もあるという意味では、最初にそういった病態はきちんとルールアウトする必要がありますね。

正岡

おっしゃるとおりです。このガイドラインでも分類が行われまして、今おっしゃっていただいた一次性と二次性ですね。二次性とは、言い換えますと、原因がはっきりしたものということです。今おっしゃっていただいた大腸癌という器質的なものですとか、例えば糖尿病等の何かしらの疾患の一症状としての症候性便秘もありますし、ほかには薬の影響、特に最近はオピオイド誘発性の便秘症もあります。

二次性のものにつきましては、まず原因の治療を行う、それが無効であった場合は、一次性の便秘症と同様に対処していくということがこのガイドラインでも示されています。

池脇

お聞きの先生方も、最初にそういったことはきちんと、分類に沿って診断をしてから治療に入ると思いますが、治療は突然薬ではなくて、食事指導を含めた生活習慣の改善が最初なのでしょうか。

正岡

おっしゃるとおりです。内科疾患は、慢性便秘症に限らず、治療の順番としてまずは生活習慣の改善、その次に薬物療法となってくるかと思いますけれども、生活習慣の改善というところがまず最初にこのガイドラインでも示されています。

池脇

それでも便秘が改善しない場合に薬物療法になりますが、便秘薬の使い方も明示されていますか。

正岡

はい。このガイドラインでは、まず浸透圧性下剤を第一選択の薬剤として使うことが示されています。

池脇

高齢の方、腎機能障害があって、マグネシウムが上がるのがちょっと心配だという方もいらっしゃいますよね。

正岡

おっしゃるとおりです。ですから浸透圧性下剤はポリエチレングリコールが保険適用になっていますし、糖類下剤のラクツロースも浸透圧下剤ではありますので、マグネシウムが、ご高齢ですとか、腎機能が悪かったりして使いづらい場合にはそういった薬剤も使えるというところがあります。

池脇

酸化マグネシウムを投与する場合は、腎機能障害がない場合でも定期的にマグネシウムはモニターしたほうがいいのでしょうか。

正岡

そうですね。投与量にもよるかと存じます。酸化マグネシウムの最大の用量が2,000㎎です。1,000㎎を超えた方は高マグネシウム血症のリスクが高くなってくるという報告もありますので、1,000㎎を超えたような方にはやはりモニタリングが必要かと存じます。

池脇

そういったものを使ってもなかなか改善しないといったときに、先生が先ほど言われた上皮機能変容薬、あるいは胆汁酸トランスポーター阻害薬、これらが新しく出てきて、便秘治療は変わってきたのでしょうか。

正岡

まさに先生がおっしゃるとおりです。従来の酸化マグネシウムですとか、刺激性下剤ではコントロールのつかなかった方も、新しい作用機序の薬を使うことでコントロールできるようになった方もいらっしゃいます。もちろん、そうでない方もいらっしゃいますけれども、選択肢が増えたということは非常に有用なことかと存じます。

池脇

上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬ですが、違いがあるのでしょうか。

正岡

はい。胆汁酸トランスポーター阻害薬は、便を軟らかくする作用に加えて、腸の動きを活発にする作用もあります。一方、上皮機能変容薬は粘膜細胞からの水分分泌を促しますので、基本的には便を軟らかくする作用により排便を円滑にするという薬です。

池脇

新しい作用機序の便秘薬が登場したので、その辺りは治療している先生方の判断で使っていただいて、場合によっては変更するというような使い方でよいですか。

正岡

はい、それでよいかと存じます。

池脇

本日は慢性便秘症の治療に関して、新しい診療ガイドラインに基づいて、お話しいただきました。ありがとうございました。