ドクターサロン

池脇

本日は骨粗鬆症と骨折というテーマで非常に具体的な質問をいただきました。

ビスホスホネートは骨折の予防効果が明らかになっている薬ですが、長期に使うことによって、逆に骨折を起こしやすくなるというのはどういうことなのでしょうか。

石橋

ビスホスホネートは骨粗鬆症の治療薬の一つです。骨粗鬆症の治療薬というのは、骨吸収抑制薬(骨を溶かしていく作用を抑える薬)か骨形成促進薬(骨を作っていく作用を増やす薬)かのどちらかで、ビスホスホネートは骨吸収抑制薬の代表格です。骨は常に新陳代謝で骨吸収と骨形成を繰り返しています。これを骨代謝といいますが、骨吸収、つまり骨を溶かしていく作用が強くなりすぎると骨が弱くなってしまうので、骨吸収を抑えて骨を強くする薬剤を使うわけです。

ビスホスホネートは有効な薬なのですが、長く服用すると骨の代謝が抑えられた状態が長期間続くために、だんだん古い骨が溜まってきて、いわば古いマンションみたいな骨になってしまい、徐々に骨の中の細かい傷(微細損傷)が蓄積されてしまいます。正常な骨代謝をしているとそういう傷は修復されていくのですが、骨代謝が抑制された状態が長く続くと、微細損傷が溜まってきます。骨粗鬆症では通常、大腿骨の近位部骨折や橈骨遠位端など長管骨の端の部分が折れるのですが、微細損傷が溜まると通常は折れない大腿骨骨幹部が急に折れてしまうことがあります。通常では起こりにくい骨折ということで、非定型骨折と呼ばれています。

池脇

先生の解説をうかがうと、要するにビスホスホネートによる骨折は、骨の吸収を抑制するという効果の裏返しですね。

石橋

そのとおりです。

池脇

その効果があるがために、骨の代謝を止めてしまって、それが長年積もり積もって、通常折れないところが折れてしまうということですね。

石橋

そうです。5年以上のことが多いですが、漫然とビスホスホネートを続けていくと、まれにではありますが、こういう骨折を起こすことがあるので気をつけるべき副作用です。

池脇

82歳でDXA法のYAMという指標が88以上あるのは、ほぼ正常なのでしょうか。

石橋

数字でいうと正常ですね。YAMというのはYoung Adult Meanの略で、若年成人平均値です。腰椎でいうと20代30代の平均値の何%かという指標で、それが80%以上あるので、80代としては骨がとても強いということになります。

しかしこの場合、腰椎の圧迫骨折を起こした後ということで、この数字をそのまま信じてはいけません。圧迫骨折を起こすと骨が圧縮されるので、そこの部分は骨密度が上がるためです。また、腰椎変形で骨硬化といって骨が硬くなったり、骨棘(こつきょく)ができたりするため、その分、骨密度が高くなります。

池脇

骨密度を正確に捉えるためには、違う場所で測定するのでしょうか。

石橋

日本では、腰椎と大腿骨の両方をとることが多いです。海外では、腰椎だと変形などの影響を受けるので、大腿骨で測定しようということになっています。この患者さんの場合も、腰椎では高いけれど、大腿骨の以前骨折した側と反対側で測るほうが正確だと思います。大腿骨の近位部で骨密度を測って、判断することは重要なことです。

池脇

ビスホスホネートを漫然と投与されている患者さんが骨折してしまうと、治療が難しいのですよね。

石橋

はい、そのとおりです。こうした場合は骨折治癒過程が働きにくくなっているため、治療が格段に難しくなります。よく大腿骨の骨幹部骨折だと、髄内釘といって、骨の中にチタンの棒を通したり、チタンのプレートで留めたりするのですが、骨折治癒が進まない状態が長く続くと、今度はその金具が破損して再手術になってしまい治療に難渋することがあります。ビスホスホネートはだいたい3~5年続けたら1年か2年か休薬すると代謝回転がまた戻るので、それから再開したり別の薬にしたりするのは大事なことだと思います。

池脇

ある程度使ったときの休薬は、1~2年ぐらいというのが目安なのでしょうか。

石橋

ビスホスホネートを使った場合、血液検査で測定できる骨代謝マーカー(骨形成マーカーおよび骨吸収マーカー)のうち、特に骨吸収マーカーが低値に抑えられます。ビスホスホネートの効果がだんだん消えていくと骨吸収マーカーが上がってくるのですが、そのタイミングがだいたい1~2年かと思います。

池脇

骨吸収が戻るのはけっこう時間がかかるのですね。

石橋

時間がかかります。ビスホスホネートは骨に沈着して効くので、半年から1年は効いていますね。だからそのぐらいお休みをするのは大事なことです。

池脇

骨折の予防という観点で、長期使用に関しての休薬についてお話をいただきました。

ただ、この患者さんの場合はすでにそういうものを経験していて、この後どうしたらよいのでしょうか。

石橋

まず、ビスホスホネートを再開すべきなのかどうかですが、圧迫骨折があると、診断基準上、骨粗鬆症となるため、しっかりとした薬物治療が勧められます。骨折を起こした側と反対側の大腿骨の骨折、あるいは非定型骨幹部骨折を起こした側の大腿骨の近位部骨折を起こさないとも限らないので、まず反対側の大腿骨の骨密度をとってみることをお勧めします。それから骨吸収マーカーを測る。よく使うのはTRACP-5bですが、それを測ってTRACP-5bが正常値範囲内になっているようだったら、ビスホスホネートの再開でもいいと思います。

骨密度がかなり低い場合は、骨形成促進薬である副甲状腺ホルモン薬や抗スクレロスチン抗体という骨形成を促進するような薬を使って、代謝回転を元に戻してあげるのも良い考えです。このように骨形成促進薬を使って、それからまた骨吸収抑制剤、例えばビスホスホネートを短期間使うということもありだと思います。

池脇

今の先生の解説をお聞きして、骨の代謝回転を止めるよりは、骨形成を促進して回転は止めないようにするほうがバランス的にはいいのかなという感じがします。

石橋

はい。骨形成促進薬のうち、副甲状腺ホルモン薬は生涯で24か月というしばりがあります。副甲状腺ホルモン薬では、テリパラチドは以前からあるのですが、最近出たアバロパラチドという副甲状腺ホルモン関連タンパク薬という製剤は最長18か月です。テリパラチドやアバロパラチドを使うと代謝回転が上がります。上がったところでまたビスホスホネートを再開します。

ビスホスホネートもおそらく2、3年の短期間であれば心配なく使える良い薬だと思います。

池脇

今おっしゃった2つの系統の薬を継続して使えないのはどうしてなのでしょうか。

石橋

2000年頃にこの薬剤の第三相の治験を実施している時期に、ラットを使って、24か月のテリパラチドの大量投与の動物実験が実施されていたのですが、この研究でラットに骨肉腫ができたので、24か月のしばりができました。

ただ、人に対する用量では骨肉腫の発生が報告されておらず心配はありません。ただ、高価な薬でもあるので、24か月しばりというのが続いています。

池脇

今、先生がおっしゃったのは骨新生を刺激する薬剤です。一方で、私はあまり使用経験がないのですが、抗RANKL抗体のデノスマブというのもよく使われています。こういう状況でこの薬が入ってくる余地はあるのでしょうか。

石橋

抗RANKL抗体もビスホスホネートと同じ骨吸収抑制薬です。これもやはり強力に骨吸収抑制をするので、あまり長期に使いすぎると、非定型骨折のリスクが上がるといわれています。なので、使い方としては、同じように5年以上の継続使用はやめておいたほうがいいと思います。抗RANKL抗体を中止した後放置すると、骨密度が急激に下がってしまうので、中止後はビスホスホネートを1年か2年間使う必要があります。

抗RANKL抗体やビスホスホネートなどの骨吸収抑制剤は良い薬ではありますが、特に5年以上使うときには、いったんお休みするのがいいのかなと私は思っています。

いずれにしても、骨粗鬆症薬は骨密度増加、骨折予防効果が高いエビデンスレベルで実証されています。必要な患者さんに必要な薬を上手に使って、高齢者の骨折をしっかり予防していただけるとありがたいです。

池脇

本日お聞きの先生方にも非常に有益なお話をいただきました。ありがとうございました。