池脇
本日は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療の一つである舌下神経電気刺激療法に関しての質問です。まず舌下神経電気刺激療法はどういう治療なのでしょうか。
井下
舌下神経電気刺激療法は、適応の基準が細かくあるのですけれども、一言で申し上げると、中等症以上の睡眠時無呼吸の患者さんには、持続陽圧呼吸のCPAPが適応となり、標準治療になるのですけれども、そのCPAPがうまく使えない方、うまく受容できない方が対象となる代替治療になります。
池脇
舌下神経を刺激することがどうしてSASの治療になるのでしょうか。
井下
睡眠時無呼吸の中でも、この治療は閉塞型睡眠時無呼吸の治療になるのですけれども、閉塞型睡眠時無呼吸の最も閉塞する部分が咽頭の舌根部なのですね。舌、べろを動かす神経が運動神経の舌下神経になります。
舌はいろいろな動きを呈しますけれども、舌下神経の中でも、舌を前方に移動させるオトガイ舌筋の分枝に対して、刺激を行うイメージの治療になります。
池脇
刺激を送るジェネレーターから舌下神経を刺激するわけですが、舌下神経の場所はどこでしょうか。
井下
舌下神経自体は顎の下にあります。ジェネレーター、発火装置は胸に、第2肋間辺りに置くのですけれども、そこから顎の下までは皮下トンネルを作っています。皮下トンネルから導線、リード線を舌下神経につなげて、呼吸相に合わせて刺激が発火する、そのようなイメージの装置になります。
池脇
リード線の配置や刺激する舌下神経の同定は問題なく実施できるものですか。
井下
この手術を実施する医師は、基本的には耳鼻咽喉・頭頸科の医師になります。耳鼻咽喉科の専門医を持っていて、かつ頭頸部領域の手術で50件以上の歴があるなどが基本になるのですが、さらに植え込み術の特定の研修を受けた者が実施することができます。舌下神経の正しい分枝を間違えずに探さないといけないというのは、通常の頭頸部の手術の世界感とはまた違いますね。
池脇
そうですよね。耳鼻科の先生だからといって、皆さんできるというよりも、解剖を熟知した方という条件を学会が出しているわけですね。
井下
そうです。
池脇
ジェネレーターですが、これは夜寝るときにスイッチオンにする装置ですか。
井下
そうです。前胸部にジェネレーターを入れるのですけれども、患者さんにはコントローラーといって、マウスのようなものをお渡しします。夜寝るときに、ご自身でそのマウスをジェネレーターの上に持っていってスイッチをオンにします。そうするとBluetoothでシステムが起動されて、吸気のときに合わせて刺激が入ります。なので無呼吸だとか低呼吸が出たときに刺激が入るわけではなくて、自発の呼吸に合わせて常に、オンになって、オフになってというイメージになります。
池脇
手術ですが、どのくらい時間がかかるのか、また入院期間はどのくらいでしょうか。
井下
手術時間は、当院ですと、症例を重ねさせていただいているので、平均1時間半ぐらいにはなりますが、初回の場合だとだいたい3、4時間は見ていただいたほうが。より安全に丁寧にというのを心がけると、それぐらいはかかるかと思います。
池脇
入院はどのぐらいなのでしょうか。
井下
入院期間はおおよそ1週間というふうには患者さんにはご説明していますけれども、早い方だと、翌日ご退院いただいたりしています。
池脇
費用ですが、2021年に保険適用になっていますが、どのくらいでしょうか。
井下
植え込みの手術に関しましては、2万8,030点になります。ジェネレーター、システムの装置自体がかなり高額になるのですね。償還価格が250万ほどだったと記憶しているのですが、高額医療制度だったり、助成の控除を受けることができるので、ご収入によるのですけれども、だいたい3割負担の方で20万円前後ではないかと思います。
池脇
その程度でしたらという言い方は変ですけれども、費用で諦めるというほど高額ではないですね。
井下
というふうには考えています。
池脇
ちょっと戻りますけれども、適応についてですが、薬物睡眠下内視鏡検査で評価されていますが、どういう検査でしょうか。
井下
舌下神経刺激は舌を刺激しますので、患者さんの睡眠時無呼吸の閉塞の場所が、舌が原因かどうかというのを確認しないといけないのですね。舌ではなくて、例えばより下の喉頭蓋という蓋のところであったり、場合によってはサイドの側壁、左右の扁桃周囲であったりという部分が閉塞の原因の患者さんもいらっしゃいますので。
池脇
確かに、舌に原因がなければ効果は見込めないですね。
井下
おっしゃるとおりです。
池脇
これは必須の検査でしょうか。
井下
必須の検査になります。
池脇
術後のメンテナンスですが、けっこう大事なのでしょうか。
井下
たいへん重要になりまして、手術がゴールではないのですね。手術は治療のための機械を植え込むものになります。治療の本番は術後のメンテナンスになります。治療が始まるのは、手術して30日が明けてから、創部の状態が落ち着いてからになります。
そして管理をしていくわけですけれども、特に初めの1年が大事になりますね。だいたい初めの1年は1、2か月に1回ぐらいはお越しいただいて、刺激のボルテージを調整していくことが必要になってきます。
池脇
必要最低限の刺激で舌が動いてくれればいいわけですよね。あまり強すぎると逆に負担、苦痛ということもあるのですか。
井下
はい。ビリビリして覚醒してしまったり、強すぎると頭痛の原因になってしまったりしますので、心地よくというか、患者さんを起こさないで、睡眠時無呼吸もほどよく抑えることができる調整電圧を見極めていくのですけれども、その閾値が定まるのが半年ぐらいになります。
池脇
MRIの検査ですが、金属でMRIの検査が受けられないという意味で聞かれたのでしょうか。これはどうでしょうか。
井下
おそらくそのようにお察しします。現状、1.5テスラまでのMRIの磁場でしたら、壊れないとは言われています。3テスラ以上はやめていただきたいというのは、世界各国と同じルールになります。
池脇
MRIの部位で制限がかかったり、かからなかったりというのもありますか。
井下
あります。日本国内の現時点でのルールは、頸部から骨盤部まで、背部もそうですが、1.5テスラであっても全面禁忌という制限が国内ではあります。
池脇
この治療法の効果、有効率ですが、普及しつつある治療なので、まだはっきりした数字はないかもしれませんが、いかがでしょうか。
井下
適応基準のところを厳密にさせていただいていますので、その分、患者さんの満足度はとてもいいと感じています。皆さん「やってよかった」とおっしゃってくださっていますし、睡眠時無呼吸の重症度がより軽く、ほぼほぼ正常化するような方々も多いですね。奏功率というふうに表現しているのですけれども、元の無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)よりも、半分以上減少し、かつAHI 20未満を目標としていて、それを奏功と判定しており、当院の奏功率はおよそ88%です。
池脇
9割近くで改善するのは、効果としては素晴らしいですね。
井下
はい。現時点でのデータですけれども。
池脇
この治療を受けたいSASの患者さんが多数いるように思いますが、日本の普及の現況はどうでしょうか。
井下
2021年に承認されてから、徐々に実施可能施設は増えていまして、まだ各都道府県に1施設は満たしていないのですけれども、特にこの1年でどんどん増えています。
池脇
本日は舌下神経電気刺激療法という新しい治療法を教えていただきました。どうもありがとうございました。