ドクターサロン

藤城

アトピー性皮膚炎は、最近は増えてきているのでしょうか。その辺りの疫学的な変化を教えていただけますか。

藤本

アトピー性皮膚炎は、昔に比べると増えているのですけれども、ここ最近で見ますと、それほど、どんどん増加しているというよりは横ばい、あるいは、わずかに増加という感じで、数というかパーセントとしてはある程度一定しています。

ただ、皆さんご存じのように、非常に罹患率が高く、子どもでは、それこそ小学生低学年の約15%という数字もありますし、中学生になってからも10%近く。成人になるにしたがって、罹患率はだんだん下がってはくるのですけれども、国民病とも言っていいような、コモンディジーズのアレルギー性疾患だと思います。

藤城

昭和から令和という非常に長い期間にはなるのですけれども、診断の方法や診断基準など、その辺りの変化はどのような感じで起こってきているのでしょうか。

藤本

診断については、実は今もわりとざっくりした定義です。アレルギー性疾患の家族歴とか本人の既往歴などのアレルギー素因があり、痒くて、繰り返す慢性の湿疹という、すごく漠然とした定義で細かい診断基準があるわけではありません。ただ、患者さんの病像は特徴的で、典型的な患者さんは見ただけで、これはアトピーだなというのはパッとわかります。

基本的には病像自体に概念の変化はあまりなく、昭和から令和に至るまで来ているわけですが、アトピーの語源であるギリシャ語の言葉のとおり、かつては「奇妙な」「得体の知れない」疾患でしたが、近年、病態の解明が進み、その得体がわかってきたといっていいと思います。

藤城

病態がわかってきたものに対して、診断を付けた上で、それに対する治療ということなのですね。もともと昭和の時代というのは、治療に関していいますと、ステロイド中心の治療だったのがだんだん変わってきたという、そのような状況でしょうか。

藤本

先生がおっしゃるとおりだと思います。ステロイド外用薬が1970~80年代ぐらいによく使われるようになり、これが昭和の時期ですよね。ですので、その頃は、ステロイド外用薬による治療が確立したといえます。もちろん非常によく効くのですが、平成の頃に入って、逆にステロイドの危険性、恐ろしさみたいなものが実際以上に世間で取り沙汰されて、ステロイド忌避や民間治療に走る患者さんがけっこう増えて、社会問題になったという時期も一時、2000年代前後ぐらいにありました。それが令和になって、今はステロイドのみならず、外用・内服・注射などの様々な有効な治療法が出現して、大きく治療の風景が変わってきています。

藤城

具体的にはどのような薬が出てきているのでしょうか。

藤本

もともと、先ほど申し上げた「得体がわかってきた」ということとして、アトピー素因という病態が明らかにされてきて、2型炎症、いわゆるTh2のサイトカインが病態の中心だという全体像が明確になり、タイプ2サイトカインが皮膚のバリアを弱くしてバリア異常を助長するという働きと、痒みを起こすという働きをもつことがわかってきました。特に2018年にIL-4とIL-13の受容体をターゲットにした抗体製剤が承認され、さらにIL-31の阻害薬、それらのサイトカインのシグナル伝達を抑えるJAK阻害薬などの治療薬が非常に有効であることがわかってきて、特に重症例では劇的な効果を示しているという状況になっています。

藤城

例えばIL-4、IL-13受容体の抗体製剤とJAK阻害薬の使い分けのようなものはあるのでしょうか。だいたいこの病態であればこうだというのが臨床上からわかってくるのでしょうか。

藤本

抗体製剤とJAK阻害薬に明確な使い分けがあるわけではありません。当然、JAK阻害薬は内服ですし、抗体製剤は注射なので、経路の違いというのが一つ。それから、一部効きやすい病態、効きにくい病態があります。特に顔の病変は、抗体製剤のほうは若干効きにくいこともあったり、JAK阻害薬ではざ瘡が発現しやすかったりするので、そういうかたちで、どちらが先ということではなく、使っていってうまく合わない場合にはスイッチするような流れで進んでいくことが多いと思います。

藤城

小児における、バイオを使う注意点はあるのでしょうか。

藤本

2型炎症をターゲットにしたバイオに関してはわりと安全と考えられていて、重大な注意点はないのですが、子どもだと注射を嫌がるので、逆に経口のJAK阻害薬が使いやすかったりということもあります。

藤城

わかりました。ステロイドから新しい抗体製剤のほうに移行しつつあるという時代かと思いますけれども、今後アトピー性皮膚炎の診療における方向性、将来展望はどのようになっていくでしょうか。

藤本

今新しい薬が出ていると申し上げましたけれども、治療の根幹部分は従来の外用治療が依然としてありますので、それをおろそかにせず、しっかり使いこなしていくことが令和の時代においても非常に重要だろうと思います。いたずらに高額な薬、強い薬を使うのではなく、必要十分な治療を患者さんに届けるということが変わらず重要な点であると思います。

一方で、JAK阻害薬あるいはタイプ2サイトカインに対する抗体製剤は、非常に有効ではあるのですけれども、まだ出口戦略というか、どういうふうにやめていって、寛解を維持するのかというところは未解決で大きな課題になっています。したがって、これらの薬をいかにやめつつ、寛解を維持するかというところが、令和の今後、大きな課題になってくると考えています。

藤城

その辺りは最近、進歩著しいAIなどが何か役に立つのでしょうか。

藤本

AIは今、皮膚科の領域でも非常にいろいろ使われていて、患者さんの層別化とか、バイオマーカーを含めた探索に活用されてきています。ただ、まだ、こういう患者さんだったらこういう出口戦略があるというところまで具体的なめどは立っていないというのが実情だと思います。

藤城

本日は、昭和から令和への変化ということで、アトピー性皮膚炎についてたいへん詳しく教えていただきました。ありがとうございました。