齊藤
本日は、下部尿路症状(LUTS)の昭和から令和への様々な変化についてうかがいます。まず、これはどういったものなのでしょうか。
古田
LUTSというのは頭文字なのですが、Lower Urinary Tract Symptomsということで、直訳すると、下部尿路症状となっています。下部尿路症状には大きく3つの症状がありまして、一つは尿を貯めることができない蓄尿症状。それから排尿症状、これは尿を出すことができない排出症状です。そして排尿後症状。この3つに分けています。
齊藤
疫学はどうでしょうか。
古田
わが国は高齢化社会を迎え、65歳以上の方が4分の1以上を占めていますので、このような下部尿路症状は加齢に伴って増えてきます。男性と女性、下部尿路で何が違うかというと、前立腺の有無です。男性には前立腺がある。そのことによって、下部尿路症状は性別によって大きく分かれてきます。
これを調べる一つの質問票として、国際前立腺症状スコア(IPSS)があります。全部で7項目あり、そのうち3つが蓄尿症状、3つが排尿症状、そして排尿後症状が一つで、この7つを0~5点に分けて点数化して重症度を決めています。男性・女性の下部尿路症状を調べてみますと、女性では、蓄尿症状である腹圧性尿失禁が男性に比べて有意に多いと言われています。一方、男性に関しては、排尿あるいは排尿後症状が主に出てきます。そして男女を問わず、加齢に伴う変化ですが、蓄尿症状である尿意切迫感、あるいは切迫性尿失禁。これは後ほどお話ししますが、過活動膀胱の主要な症状であり、こちらは男女共通で多いと言われています。
齊藤
原因はどうでしょうか。
古田
下部尿路症状の原因は、大きく分けて、神経因性と非神経因性、そして一部、薬剤性と言われています。その中で、神経因性というのは脊髄あるいは脳の障害で、全体の約20%と言われています。メインの80%ぐらいは非神経因性です。
男女別に申し上げますと、女性に多い腹圧性尿失禁、それから男性に特有な前立腺肥大症、そして男女を問わず過活動膀胱、そして一部、最近話題になっています女性に多い間質性膀胱炎、それから、こちらも加齢に伴って男女ともどもに増えていく夜間頻尿、こういったものが非神経因性として挙げられます。
齊藤
加齢によって臓器を支える力が弱くなってくるということでしょうか。
古田
そうですね。特に女性の腹圧性尿失禁というのは、加齢や出産あるいは肥満が契機となって、おなかに力を入れたときに尿が漏れると言われています。原因としては、尿道を支える恥骨尿道靭帯の損傷と言われています。したがって、治療法は薬物療法ではなく外科的治療となり、現在我々はTVTテープ、あるいはTOTテープといった、いわゆるポリプロピレンを使って、靭帯を支えるという治療を行っています。
さらに、男性の場合、前立腺の癌で全摘をした後に高度の腹圧性尿失禁を起こす場合があります。こちらに対しては、人工尿道括約筋埋め込み術を現在行っています。
齊藤
男性の場合は、前立腺肥大症もありますね。
古田
はい。前立腺肥大症の定義を最初に述べさせていただきますと、前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患で、通常は前立腺の腫大と下部尿路閉塞を示唆する下部尿路症状を伴うとなっております。非常に難しい言葉なのですが、前立腺の腫大、それから下部尿路閉塞、これらは加齢に伴って起きるものです。腫大の原因はわかっていませんが、加齢に伴って男性の9割が腫大しますし、下部尿路閉塞に関しては、交感神経が活性化することが原因と言われています。
治療法はやはり最初は薬物療法が主体となり、腫大に対しては5α還元酵素阻害薬、下部尿路閉塞に対しては交感神経を遮断するα1遮断薬、あるいは最近では、EDの治療に用いられているPDE5阻害薬、こういったものが薬物療法として使われています。
齊藤
手術になる場合もありますね。
古田
そうですね。以前から電気やレーザーを使って経尿道的に前立腺を切除、あるいは核出する方法がありましたが、最近ではMIST(ミスト)という低侵襲手術で、だいたい10分ぐらいで手術が終わってしまいます。その代表的なものとして、前立腺吊り上げ術、それから前立腺の水蒸気治療というのがあります。
さらに、ロボットによるアクアブレーションという方法があり、水流を使って前立腺を切除する。こちらはトータル1時間ぐらいかかりますが、腫大した前立腺に対し、従来の手術に比べ、非常に短時間で安全に行える手術と言われています。
齊藤
手術療法も非常に安全、それからクオリティがよくなってきているということですか。
古田
そうですね。患者さんにとっての負担が少なくて、治療効果も期待できるということです。
齊藤
それから過活動膀胱についてはどうでしょうか。
古田
過活動膀胱の定義というのは単にトイレが近いということではなくて、尿意切迫感、これが必須の症状と言われています。過活動膀胱を調べる質問票があります。シンプルに4つの質問があり、3番目の「急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか」、こちらが尿意切迫感に対する質問で、これが週1回以上、これが必須となります。そして、そのほかの3つの質問のうちの1点以上、合計3点以上で過活動膀胱と診断します。ですから、内科の先生でも診断しやすいかなと思います。
こちらに関しても、治療のメインは薬物療法であり、膀胱の平滑筋を弛緩させるβ3アドレナリン受容体作動剤、それから膀胱の収縮を抑制する抗コリン剤、これらが推奨グレードAとなっていますが、副作用の観点から、現在ではβ3アドレナリン受容体作動剤がメインで使われています。
齊藤
薬を使わない治療もあるのですか。
古田
はい。まずファーストラインは薬物療法で、それに対して難治性、すなわち3か月以上薬物療法を行っても改善しない場合、ボツリヌス毒素の膀胱壁内注入療法、あるいは仙骨神経刺激療法があります。
齊藤
それから間質性膀胱炎というものもあるのですね。
古田
はい。間質性膀胱炎というのは、皆さんご存じかどうかわかりませんが、泌尿器科で唯一、難病に指定されています。難病の番号は226番となっていますが、こちらは膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛、圧迫感または不快感があり、尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴い、混同しうる疾患がない状態と定義されています。
間質性膀胱炎の中で、ハンナ病変を認めるものをハンナ型間質性膀胱炎、それ以外のものを膀胱痛症候群、外来の膀胱鏡所見でこの2つに分けます。症状だけを申し上げますと、過活動膀胱が尿意切迫感が必須の症状に対して、間質性膀胱炎のほうは膀胱痛がメインの症状なのですが、全体の約半数ぐらいで、やはり頻尿、尿意切迫感のほうが多く認められます。ですから、なかなか症状で過活動膀胱と間質性膀胱炎の鑑別は難しいと言われています。ガイドライン上は、外来で膀胱鏡検査を行って、ハンナ病変の有無を確認することが必須の条件となっています。
齊藤
男女比ではだいぶ違うのでしょうか。
古田
女性が1対9ぐらいで多いと言われています。その理由がなぜなのかというのは今のところ不明です。
齊藤
これは年齢もありますか。
古田
はい。やはり閉経後の女性に多いです。男性の方でも90歳ぐらいでいきなり発症する方もいらっしゃって、俗に言うアレルギー膠原病のようなものとはちょっと違って、発症年齢は広範囲ですが、総じて閉経後の女性が多いと言われています。
齊藤
治療についてはどうでしょうか。
古田
こちらに関しましては、2021年に、膀胱内にDMSO、よく薬品の溶媒とか細胞の保存液などで使われている薬剤ですが、このDMSOの膀胱内注入療法、それからその翌年、2022年に外科的治療であるハンナ型間質性膀胱炎手術というのが保険収載されています。ただ、こちらはあくまでもハンナ型間質性膀胱炎に対しての治療で、膀胱痛症候群に対しては、どちらも保険適用はありません。
齊藤
夜間頻尿、これがたいへん多いと思いますけれども、どうでしょう。
古田
夜間頻尿というのは皆さんご存じのとおり、下部尿路症状の中では一番QOLを障害する疾患と言われています。その病態は、我々泌尿器科医が主として扱っている膀胱蓄尿障害が全体の13%ぐらいで、睡眠障害が20%ぐらいと言われています。一番メインとなるのが多尿・夜間多尿です。こちらは内科的な疾患、糖尿病や尿崩症、多飲、うっ血性心不全、腎不全、こういったものが原因となります。こちらに関しては行動療法が主体となります。飲水指導、あるいは飲水に伴う塩分の制限を行ったり、運動療法として夕方の歩行やスクワット、下肢の弾性ストッキング、こういったものを指導しています。
最後に、男性のみですけれども、デスモプレシン酢酸塩水和物が保険上は使えることになっています。
齊藤
ありがとうございました。