ドクターサロン

藤城

本日は、合併症のある妊娠とプレコンセプションケアについてうかがいたいと思います。

合併症のある妊娠患者さんというのは増えてきているような状況でしょうか。

荒田

そうですね。昭和から、第一子の妊娠・出産年齢がどんどん上がってきまして、女性の妊娠・出産の高齢化ということで、合併症のある妊娠が増えてきています。高齢化によって増えてくるのは、一般的には高血圧であったり、糖尿病であったりという疾患が多いわけですけれども、そのほかにも、女性の性成熟期に多い疾患、例えば自己免疫疾患である甲状腺疾患や慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患等々、そういう疾患が増えていると思われます。

藤城

妊娠・出産される女性は減ってきている中で、合併症のある妊娠・出産が非常に増えているという状況ですね。

荒田

そうですね。特に最近はだいたい9人に1人が生殖補助医療で生まれています。今までは妊娠がなかなかできなかった人たちも妊娠が可能になってきているということで、より一層、合併症を持った、慢性疾患を持った方々の妊娠・出産の機会が多くなっていて、今はもう何にもない妊娠というのが珍しくなってきているのではないかと思います。

藤城

そのような状況なのですね。合併症のある妊娠に対して、どのようにケアしていくかというのは非常に重要な課題だと思うのですが、疾患ごとにアプローチの仕方は違うのでしょうか。

荒田

疾患ごとに違う点もありますが、共通な点もあります。共通な点の中では、一つは、リスクになるものとして年齢という要素は大きいです。今の妊娠・出産の高齢化によって、リスクがどんどん高くなってきています。慢性疾患を持った方がなかなか妊娠を切り出せないでいて、子どもが欲しいと思ったときにはもう40歳近くなっているというようなことは大きな問題かなと思っています。

そのほかには、生活スタイルの問題もありまして、例えば肥満や痩せという問題。特に日本では若い女性の痩せが増えてきていて(20歳代で約20%超)、そのことによって、赤ちゃんの出生体重が1995年ぐらいから軽くなってきているという問題もありますので、妊婦さんといいますか、若い女性にはしっかり十分に栄養をとっていただく。そして一方では肥満の方というのも多く、5~8%ぐらいいらっしゃるわけですけれども、その方々にはバランスのとれた栄養で、かつ生活スタイルも改善していただき、ちょうどいいBMIを目指していただくことも必要ではないかと思います。

そのほかに生活習慣の中ではタバコやアルコールも問題となります。禁煙や節酒も必要ではないかと思われます。

藤城

共通な部分としては、生活習慣を見直すというところが非常に重要であるというお話だったと思いますし、それぞれの疾患の専門家の先生とうまく連携しながら、妊娠・出産をしっかりと乗り切っていく。そういう体制づくりも非常に重要なのだと思いますが、そのような取り組みというのは今、日本では進んできているのでしょうか。

荒田

少しずつ進んできているというのが現状ではないかと思います。慢性疾患を持った女性の中で、特に糖尿病の分野というのは、1980年代から妊娠前のヘルスケアが非常に重要だということが言われており、妊娠前のヘルスケアが一番進んでいる疾患になっています。糖尿病は、特に高血糖がありますと、赤ちゃんの先天性の形態異常が増えてきます。ヘモグロビンA1cが8.4%を超えてきますと、約4人に1人が先天異常を持って生まれてしまう。そういうリスクのある疾患になります。また、糖尿病網膜症や糖尿病性腎症等の合併症がコントロールされていないと、妊娠中に悪化しやすいということもあり、昭和の時代から、妊娠前にしっかりコントロールしようという動きのある疾患になっています。

藤城

よくわかりました。つまり糖尿病において先駆的に妊娠前、妊娠期、そして出産期にかけて、様々な取り組みを行ってきているということなのかと思います。今の糖尿病の話をうかがいますと、まさに令和に向けて、妊娠前の患者さんの管理、プレコンセプションケアというのが非常に重要になってきているということなのかと思います。その辺りの取り組みについて、お話しいただけますか。

荒田

疾患を持った女性にかかわらず、プレコンセプションケアというのが今注目されてきています。以前は妊娠中にしっかりとケアをすれば、よりよい妊娠・出産、そして、より健康な赤ちゃんの転帰が得られるということで、周産期ケアに力を入れられ、母子保健の強化が中心になっていました。2012年ぐらいから世界的に、公衆衛生的にプレコンセプションケア、妊娠前のヘルスケアというのが注目されてきました。赤ちゃんの死亡率である周産期死亡率や、妊産婦死亡率、すなわちお母さんの死亡率を改善するために妊娠前からのヘルスケアをよりしっかりと行うことに力を入れられ始めました。世界では米国で2006年から、2012年には世界保健機関がプレコンセプションケアを推奨するようになったのです。

一方で、日本は周産期医療、そして母子保健のレベルが非常に高いことから、世界の中ではトップレベルに周産期死亡率が低い、そして母体の死亡率が低い国であることが示されています。それでも妊娠前にケアをすることでリスクを減らせる疾患は未だ多くあると考え、私どもの成育医療研究センターでは、2015年にプレコンセプションケアセンターというものを立ち上げました。

その後、プレコンセプションケアに対する日本での政策が、この1、2年で大きく変わってきています。2021年に成育医療等基本方針が出され、そこで初めて政策として、公的な文書の中でプレコンセプションケアについて述べられました。そこでは「女性やカップルに将来の妊娠のための健康管理を提供すること」と定義されました。2024年に政府の骨太方針の一つとして「プレコンセプションケアについて5か年戦略を策定した上で着実に推進する」ということが出され、そこから「プレコンセプションケア推進5か年計画」の委員会が立ち上がり、討議されて、2025年5月にこども家庭庁から「プレコンセプションケア推進5か年計画」が出されました。そこでは、日本のプレコンセプションケアは、妊娠・出産時の女性と子どもの転帰を改善させる目的のみではなく、高齢化社会における国民全体の生涯の健康を見据えながら、ライフコースアプローチとしてのヘルスケアとして定義されることになりました。

こども家庭庁が出した本5か年計画の中で、プレコンセプションケアは、生涯にわたり、身体的・精神的・社会的(バイオサイコソーシャル)に健康な状態であるための取り組みとして「性別を問わず、適切な時期に性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う」概念であると定義されました。2025年を初年度として、5年間でこの政策を進めていくということになっています。

藤城

先生におかれましては、こども家庭科研費を取られて、かなり力を入れて研究も進められているとうかがっていますけれども、その辺りも少しご紹介いただけますか。

荒田

私どもは、プレコンセプションケアを進める中でも、特に医療機関におけるプレコンセプションケア、すなわち慢性疾患を持った方やハイリスク妊娠になられる可能性のある方々を対象にケアをするということに力を入れてきています。こども家庭科学研究では、「プレコンセプションケア医療者用マニュアル」を2024年度に作成させていただきました。そこで主な疾患として比較的性成熟期の女性に頻度の多い疾患である糖尿病、高血圧、バセドウ病、慢性関節リウマチに関するプレコンセプションケアをマニュアルの各論として紹介し、この4疾患の患者さんへのカウンセリング用のリーフレットを作成しました。多くの先生方にこれを利用していただき、ご意見を頂戴できたらと思います。

これらを活用して、さらにほかの疾患でもプレコンセプションケアを広げられるように、今後マニュアルを充実させていければと思っています。

藤城

私の専門分野であります炎症性腸疾患も、若年者、妊娠可能な女性に非常に多い疾患でありますので、その辺りもマニュアル等ができてくればいいのかなと思います。

本日は、合併症を有する妊娠・出産が増えてきているその背景についてお話しいただきました。しっかりと母子とも健康に長生きをするためには、プレコンセプションケアという妊娠前の管理が非常に重要であって、世界的な動向、国内での動向についてもお話しいただきました。どうもありがとうございました。