ドクターサロン

大西

海老澤先生、小児のアレルギー疾患というテーマでうかがいたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

海老澤

よろしくお願いします。

大西

小児のアレルギー疾患の状況が変わってきているように思いますが、その辺りを教えていただけますか。

海老澤

以前は、小児アレルギー疾患というと、気管支喘息が中心的な課題でしたが、最近、小学生の疫学的な調査ですと、減少に転じています。アトピー性皮膚炎のほうも一時期かなり増えていたのですが、それも横ばい、減少傾向になっています。

その代わり、今、小児アレルギーで我々の最も問題としている疾患は食物アレルギーとアナフィラキシー。さらに、小児のアレルギー性鼻炎、結膜炎も相変わらずものすごい勢いで増えて、低年齢化しているというところが中心的な課題かと思います。

大西

喘息等が減ったのは、薬物療法が進歩したということがあるのでしょうか。

海老澤

それもあると思います。あとは日本の喫煙率や、大気汚染の状況、そういうものの改善。または居住環境で、以前は絨毯が多かったのですが、最近はかなりの家がフローリングになってきて、ダニの室内汚染も減ってきているのかなという気はします。

大西

食物アレルギーですが、木の実が原因であることが多いと聞きました。

海老澤

全国のモニタリング調査というのを3年に一度、消費者庁の加工食品のアレルギー表示を適正化する目的で、政府から研究費をいただいてやっていますが、2014年辺りから少しずつ増えてきていて、最近急増しています。今までは卵・牛乳・小麦を3大アレルゲンといっていたのですが、現在は卵に次いで木の実類が2番目。クルミ単独で2番目になっています。カシューナッツは7番目に上がってきています。以前ですと、2000年ごろには、木の実類というのは日本人にほとんどないねという話を外国の専門家としていたぐらいです。

大西

その病態と診断に関してうかがいたいと思います。食物タンパクが誘発する胃腸症があるとうかがったのですが、その現状を教えていただけますか。

海老澤

2000年ごろ、生後1週間以内ぐらいのお子さんたちが人工乳で下痢や発熱、嘔吐とか、CRPが強陽性になったり、そういう疾患・病態が症例報告されるようになってきました。当時まだそういう疾患概念がきちんと確立されていなかったので、開腹手術を受けてしまったり、あるいは抗生物質を投与されたりということが起きていました。結局、それらは乳児あるいは新生児の消化管のアレルギーで、IgE抗体に依存しない疾患であるということがわかってきました。最近はそれだけではなくて、乳児期に卵黄によって激しく吐くという病態が日本で問題になってきています。

大西

かなり蔓延してきているということなのですね。

海老澤

そうですね。

大西

食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎もいろいろ病態があるのでしょうか。

海老澤

アトピー性皮膚炎については、2005年に私どもが皮膚科の先生方と議論して、皮膚の治療を先にきちんとやるということを明確に出してから、徐々に、乳児期の湿疹の管理がよくなってきました。離乳食を始める前から卵や牛乳などでIgE抗体が陽性になってしまう患者さんたちは相変わらずいるのですが、アトピー性皮膚炎が悪化するという方はだいぶ減ってきて、どちらかというと、即時型の症状で発症してくる方が中心的になっていると思います。

大西

今アナフィラキシーは、非常に大きな問題かと思いますが、その辺りの状況はいかがですか。

海老澤

文部科学省の小・中・高の公立の学校での調査で、2004年のときは0.14%の有症率だったのが、2022年に行った調査ですと0.62%ということでアナフィラキシーも増えてきています。増えている原因は何かというと、先ほど申し上げた木の実類の増加ということもけっこう大きいのかなと思うのと、あとは食物アレルギーがなかなか治りにくい方がけっこう増えてきているなという印象があります。

大西

給食でも時々問題になることがありますよね。

海老澤

そうですね。日本では2008年に学校でのアレルギーのガイドラインを出したのですが、これがアドレナリン自己注射薬を学校で先生方が使ってよいという斬新なガイドラインだったものですから、なかなか受け入れられませんでした。2012年に調布で小学校5年生の女の子が、給食に出された、粉チーズが入っているチヂミを食べて、アナフィラキシーによって亡くなったという悲しい事例があってから、全国的に学校での生活管理指導表をきちんと使うということ、アドレナリン自己注射薬も積極的に打っていこうというキャンペーンを文部科学省が2015年ぐらいに行って、それから10年ぐらい経った状況なのですけれども、やはりアドレナリン自己注射薬を使うというのは学校の先生方にとって相変わらずハードルが高いようです。2022年の調査でも、救急救命士の方がけっこう学校で打ってくれていて、保護者が呼ばれて打つという事例は減ってきていますが、学校の先生方はやはりまだだいぶ抵抗感があるみたいですね。

大西

食物を食べた後、運動して誘発されるような病態もあるとうかがっていますが。

海老澤

これは食物依存性運動誘発アナフィラキシーといいまして、食べただけでは何も起きないのですが、食べた後に運動をしたり、成人では入浴とかアルコールを飲んだ状態とか疲れていたり、いろいろな悪化因子が加わったときに症状が出てくる、そういう疾患です。日本では小麦とエビが多いと言われていたのですが、最近は果物で起きる方々が増えていまして、その果物が桃とか梅とか。これは生で起きるだけではなくて、缶詰などでも起きる。加熱されていても起きる。そういう非常に強いアレルゲンが見つかってきています。

それがどうも花粉と似たタンパク質で、ジベレリンという、植物のホルモンを制御するタンパク質が原因と考えられているのですが、それが少しずつ増えてきている印象があります。

大西

その対処方法はどのようにしたらよいですか。

海老澤

原因物質をきちんと診断することがまず第一です。その診断がつかないと、アナフィラキシーを繰り返してしまうので、その診断がついて、食べたら運動しない、運動するのだったら食べないという、そういう指導が中心になってくると思います。

あと、アナフィラキシー治療の最近の話題としては、先ほど申し上げた針の出るアドレナリン自己注射薬ではなくて、アドレナリンの点鼻製剤が承認され、薬価もつき、上市されました。

大西

それは素晴らしいですね。学校の先生も使いやすくなりますかね。

海老澤

そうですね。学校の先生方や、患者さん、保護者の方にとっても非常にハードルが下がるのではないかと期待しています。

大西

そういう場合、特に資格などは必要ないのでしょうか。

海老澤

アドレナリン自己注射薬の登録システムと同じように、今度の点鼻のアドレナリンのほうも同様のe-ラーニングなどを見ていただいて、使い方や適切な対処方法を勉強していただいた先生が処方可能になってくるというシステムになります。

大西

口腔アレルギーというのもあるかと聞いていますが、どういう状況なのでしょうか。

海老澤

これは、先ほど申し上げたように、アレルギー性鼻炎、結膜炎、花粉症を中心にして増えています。皆さんスギ、ヒノキをよくご存じだと思いますが、スギ、ヒノキと同じ時期に飛ぶ、本州ですと、ハンノキ花粉というものがありまして、ハンノキ花粉に交差反応を起こす、似たタンパク質を持っている果物がバラ科の果物なのです。リンゴや桃、梨、あるいはブドウなどで、口の痒みとかイガイガ感を訴えてくる方が多いのですが、この場合には、加熱をすると反応しなくなったり、あるいは口腔粘膜に限局するというのは、胃に入って消化されてしまうとアレルギー反応を起こす能力を失うというところが背景にあります。

大西

ありがとうございました。