何かに夢中になっている状態を日本語では「ハマっている」と表現しますが、英語ではこれをbe intoと表現します。ですから“I’m into craft beer these days.”と言えば、「最近、クラフトビールにハマっています」という意味になります。また「ハマる」という変化を表す場合にはget intoを使い、“I’ve recently gotten into fly-fishing.”「最近、フライフィッシングにハマりました」のように表現します。
さらに強い「沼っている」状態を表すのがbe hooked onです。hookは魚を釣る「針」ですので、be hooked onは「針に引っかかって抜けられない」というイメージになります。ですから“I’m hooked on this TV series.”と言えば、「このテレビドラマにすっかり沼っています」という意味になります。
これと似た表現にbe obsessed withがあります。obsessはラテン語で「取り囲む」や「占領する」を意味する言葉に由来し、be obsessed withは「頭の中が占領されている」というイメージになります。ただ“He’s obsessed with vintage watches.”と言えば、「彼はヴィンテージ時計に夢中です」という意味ですが、この表現には「少し度を越している」というニュアンスも伴います。
これらの「ハマっている」や「沼っている」に関連して、最近では「推し」という表現もすっかり定着しました。この「推し」に完全に一致する英単語はありませんが、最も一般的にはfavoriteを使って、“She’s my favorite member of the group.”「彼女がそのグループでの私の推しです」のように表現します。口語ではfavoriteを短くしたfaveも使われ、“Who’s your fave?”と言えば「誰推しですか?」という意味になります。
しかしfavoriteはあくまで「一番好きな人やもの」を表す言葉であり、「積極的に応援する」というニュアンスまでは十分に伝えられません。その場合には、“He’s the member I support the most.”「彼が私のイチ推しのメンバーです」や、“I’ve been supporting her since her debut.”「デビュー以来、ずっと彼女を推しています」のようにsupportという動詞を使うとよいでしょう。また競技やオーディションなどで「成功してほしい」と応援する場合にはroot forを使い、“I’m rooting for her to win.”「彼女が優勝するように応援しています」のように表現します。
そして「推し」に関連して、最近よく使われる表現がstanです。これはEminemの楽曲に登場する、ある歌手に異常なほど執着するファンの名前に由来します。現在では名詞として「熱狂的なファン」を、動詞として「熱烈に応援する」を意味し、“I’ve been stanning this group since their debut.”と言えば、「デビュー時からこのグループを推しています」という意味になります。ただしstanには場合によっては「度を越している」というニュアンスがありますので注意してくださいね。
ある作品や人物を中心に形成されるファン文化やファンの共同体はfandomと呼ばれます。また「推しのグッズ」はmerchandiseとなり、口語ではこれを短くしたmerchとなります。ですから“I spent too much money on merch this month.”と言えば、「今月は推しのグッズにお金を使いすぎました」という意味になります。
日本語ではある分野に非常に詳しい人を「オタク」と呼びます。この言葉はもともとアニメやSFなどのファン同士が、相手を「お宅」と呼び合っていたことに由来します。この日本語の「オタク」に近い一般的な英語表現にはgeekとnerdの2つがあります。geekは特定の趣味や技術に強い関心を持つ人を表し、nerdは知識や細部を深く追究するタイプの人を表します。両者の意味はかなり重なっていますが、geekは趣味や技術への熱中を、nerdは知識や学問的な細部への没頭をより強く感じさせます。
ではこうした「ハマっている」状態は、どこから医学的なaddiction「依存」になるのでしょうか。何かを行う頻度や費やす時間だけで決まるわけではなく、自分でその行動を調整できなくなるloss of control「コントロールの喪失」や、健康・仕事・学業・人間関係などに問題が生じても続けてしまうcontinuation despite harmful consequences「有害な結果が生じても続けること」が重要になります。
ですから健康的に見える「推し活」についても、“Can you control how much time and money you spend on it?”「それに使う時間やお金を自分で調整できますか」や、“Has it caused any problems in your daily life?”「日常生活に何か問題が生じていますか」と尋ねることが重要になります。
医学で「依存」を表す場合にはdependenceという言葉も使われますが、addictionとdependenceは完全に同じではありません。dependenceは、ある物質に身体が適応し、それを急に中止するとwithdrawal symptoms「離脱症状」が現れる状態を指すことがあります。
現在の診断では、アルコールや薬物によって健康や生活に問題が生じている状態をsubstance use disorder(SUD)「物質使用症」という枠組みで捉えます。アルコールであればalcohol use disorder(AUD)「アルコール使用症」と、そしてオピオイドであればopioid use disorder(OUD)「オピオイド使用症」と表現します。かつて使われていたsubstance abuse「物質乱用」とsubstance dependence「物質依存」という診断上の区分は、DSM-5ではsubstance use disorderに統合されています。
このopioidに関連して、現在の米国で大きな社会問題となっているのがfentanylです。日本語では「フェンタニル」と発音しますが、英語では最初のfenにアクセントを置き、続く母音を弱く発音するため、「フェンタネル」や「フェンタヌル」のように聞こえます。
このfentanylは、手術時の鎮痛や重い痛みの治療にも用いられる非常に強力なsynthetic opioid「合成オピオイド」です。しかし米国では、illegally manufactured fentanyl「違法に製造されたフェンタニル」がheroin「ヘロイン」やcocaine「コカイン」、偽造された錠剤などに本人の知らないうちに混入され、それによるoverdose「過量摂取」が深刻な問題となっています。
fentanylなどのopioidを過量に摂取すると、respiratory depression「呼吸抑制」が起こり、呼吸が極端に遅くなったり、止まったりする可能性があります。このopioid overdoseの作用を一時的に打ち消す薬がnaloxone「ナロキソン」ですが、このnaloxoneには注射剤のほかに、鼻腔内へ噴霧するnasal spray「点鼻スプレー」があり、その代表的な商品名がNARCAN Nasal Sprayです。ちなみにNARCANは英語では「ナーキャン」に近い発音になります。
このnaloxone nasal sprayは、医療従事者だけでなく、適切な説明を受ければ一般の人でも使用できます。San Francisco Police Department(SFPD)では、警察官にintranasal naloxone「経鼻ナロキソン」が配備されており、救急隊が到着する前に警察官が投与して命を救った事例もニュースなどで報道されました。
ここで日本でも問題となっている、いわゆる「ゾンビたばこ」についても確認しておきましょう。これを理解するには、まずvapeとheated tobacco product「加熱式たばこ」を区別する必要があります。vapeは一般に、e-liquid「電子たばこ用の液体」を加熱し、発生したaerosol「エアロゾル」を吸い込む「電子たばこ」、またはそれを吸う行為を表します。これに対してIQOSやPloom TECHなどはheated tobacco products(HTPs)「加熱式たばこ」であり、たばこ葉やその加工品を燃焼させずに加熱する製品です。
日本で「ゾンビたばこ」と呼ばれているものは、cigarette「紙巻きたばこ」でも、IQOSのようなHTPs「加熱式たばこ」でもありません。主にetomidate「エトミデート」を含む液体を電子たばこで加熱して吸引する製品です。そのため英語ではzombie cigarettesと直訳するよりも、etomidate-laced vapesまたはetomidate-laced e-cigarettesと表現するほうが正確です。このlaceには「ひもで結ぶ」という意味のほかに、飲み物や薬物などへ別の物質を「混入する」という意味があり、a drink laced with drugs「薬物を混入された飲み物」のようにも使われます。
etomidateは海外で麻酔導入薬などとして使用されている短時間作用型の薬ですが、日本では医薬品として承認されていません。これを含む電子たばこを乱用すると、意識障害やけいれん、身体のコントロールを失うような症状が現れ、その姿が「ゾンビ」のように見えることから「ゾンビたばこ」と呼ばれるようになりました。英語で説明するなら、“So-called ‘zombie cigarettes’ are actually vapes containing etomidate.”「いわゆる『ゾンビたばこ』は、実際にはエトミデートを含む電子たばこです」と表現するとよいでしょう。
ではここから、依存症の診療で使われる英語表現を見ていきましょう。依存症の評価で重要な表現の一つがcraving「強い欲求・渇望」です。患者さんは“I get a strong craving for alcohol in the evening.”「夕方になると酒を強く飲みたくなります」のように表現します。医療者は“How strong are your cravings on a scale of zero to ten?”「その欲求は0から10でどの程度の強さですか」と尋ねることができます。
cravingと似た表現にurge「衝動」があります。cravingが物質や行動を強く求める感覚であるのに対し、urgeは「今すぐその行動をしたい」という衝動に焦点を置いた表現です。“What do you usually do when you feel the urge to drink?”と尋ねれば、「飲みたい衝動を感じたとき、普段はどうしていますか」という意味になります。
こうしたcravingやurgeを引き起こすきっかけがtriggerです。ストレス、孤独、特定の場所、一緒に飲酒していた友人など、様々なものがtriggerになります。“What tends to trigger your cravings?”「どのようなことがきっかけで強い欲求が起こりますか」と尋ね、患者さんと一緒にtriggerを特定していきます。
urgeへの対処法を表す興味深い英語表現にride out an urgeがあります。ride outは、嵐や困難な時期が過ぎるまで「何とか持ちこたえる」という意味です。cravingは波のように強くなった後、時間とともに弱まることがあるため、“Try to ride out the urge without acting on it.”「行動に移さず、その衝動が過ぎるのを待ってみましょう」のように表現します。そしてこれを心理的な技法を表したものがurge surfingです。強い欲求を無理に消そうとするのではなく、波のように現れては消えていく感覚として観察し、その波に乗りながらやり過ごします。
依存症の経過を説明する際にはrelapse「再発」という表現もよく使われます。一度使用をやめたり減らしたりした後、再び以前の使用パターンに戻ることを意味します。ただし一度だけ使用してしまったlapse「一時的な再使用」と、継続的な状態に戻るrelapseを区別することもあります。“One lapse does not have to become a full relapse.”と伝えれば、「一度の再使用が必ずしも本格的な再発になるわけではありません」という意味になります。
最近では、relapseの代わりにreturn to use「再使用」や、アルコールであればreturn to drinking「飲酒の再開」という、より中立的な表現も使われています。再使用があった場合には、患者さんを責めるのではなく、治療を再開したり、治療方法を見直したりする必要があります。その際には“A return to use does not mean that treatment has failed.”「再使用は治療が失敗したことを意味しません」という表現が役に立ちます。
依存症に関しては、言葉そのものが患者さんへのstigma「負の烙印」を生むことがあります。たとえばaddict「依存者」やalcoholic「アルコール依存者」という表現は、その人全体を依存症という一つの特徴だけで決めつけるように聞こえる場合があります。そのため最近では、a person with a substance use disorderやa person with alcohol use disorderのようなperson-first language「人を先に置く表現」を使うことが推奨されています。
アルコールや薬物を使用しない状態はabstinence「断酒・断薬」と呼ばれます。また日常的にはsobrietyやsoberも使われ、“She has been sober for five years.”と言えば、「彼女は5年間、断酒・断薬を続けています」という意味になります。ただし、すべての患者さんにとって最初から完全なabstinenceだけが唯一の目標になるとは限りません。使用量を減らす、overdoseを防ぐ、生活上の害を減らすといったharm reduction「ハームリダクション」も、回復へ向かう重要な支援となります。
使用を徐々に減らすのではなく、ある日突然すっぱりとやめることをquit cold turkeyまたはgo cold turkeyと表現します。“He quit smoking cold turkey.”と言えば、「彼はたばこをきっぱりとやめました」という意味になります。ただし、長期間の多量飲酒や一部の薬物では、突然中止すると重いwithdrawal symptoms「離脱症状」が起こることがありますので、cold turkeyが常に安全な方法とは限りません。
治療を勧める際にも、“You just need to quit.”「ただやめればよい」と言うだけでは、患者さんの抱えている困難を理解したことにはなりません。motivational interviewing「動機づけ面接」では、“What are some of the good things and not-so-good things about your drinking?”「飲酒について、良いと感じる点と、あまり良くないと感じる点は何ですか」と尋ね、患者さん自身の迷いや価値観を一緒に整理することが求められます。
患者さんがまだ使用をやめる準備ができていない場合にも、その人を治療の外に置くのではなく、meet people where they areという姿勢が大切になります。直訳すれば「その人がいる場所で会う」ですが、実際には「医療者の理想を押しつけるのではなく、患者さんの現在の状況を受け止め、そこから支援を始める」という意味になります。依存症の診療では、患者さんがどこを目指すべきかを一方的に決めるのではなく、まずその人が「今いる場所」から一緒に歩き始めることが大切になるのです。
さらに強い「沼っている」状態を表すのがbe hooked onです。hookは魚を釣る「針」ですので、be hooked onは「針に引っかかって抜けられない」というイメージになります。ですから“I’m hooked on this TV series.”と言えば、「このテレビドラマにすっかり沼っています」という意味になります。
これと似た表現にbe obsessed withがあります。obsessはラテン語で「取り囲む」や「占領する」を意味する言葉に由来し、be obsessed withは「頭の中が占領されている」というイメージになります。ただ“He’s obsessed with vintage watches.”と言えば、「彼はヴィンテージ時計に夢中です」という意味ですが、この表現には「少し度を越している」というニュアンスも伴います。
これらの「ハマっている」や「沼っている」に関連して、最近では「推し」という表現もすっかり定着しました。この「推し」に完全に一致する英単語はありませんが、最も一般的にはfavoriteを使って、“She’s my favorite member of the group.”「彼女がそのグループでの私の推しです」のように表現します。口語ではfavoriteを短くしたfaveも使われ、“Who’s your fave?”と言えば「誰推しですか?」という意味になります。
しかしfavoriteはあくまで「一番好きな人やもの」を表す言葉であり、「積極的に応援する」というニュアンスまでは十分に伝えられません。その場合には、“He’s the member I support the most.”「彼が私のイチ推しのメンバーです」や、“I’ve been supporting her since her debut.”「デビュー以来、ずっと彼女を推しています」のようにsupportという動詞を使うとよいでしょう。また競技やオーディションなどで「成功してほしい」と応援する場合にはroot forを使い、“I’m rooting for her to win.”「彼女が優勝するように応援しています」のように表現します。
そして「推し」に関連して、最近よく使われる表現がstanです。これはEminemの楽曲に登場する、ある歌手に異常なほど執着するファンの名前に由来します。現在では名詞として「熱狂的なファン」を、動詞として「熱烈に応援する」を意味し、“I’ve been stanning this group since their debut.”と言えば、「デビュー時からこのグループを推しています」という意味になります。ただしstanには場合によっては「度を越している」というニュアンスがありますので注意してくださいね。
ある作品や人物を中心に形成されるファン文化やファンの共同体はfandomと呼ばれます。また「推しのグッズ」はmerchandiseとなり、口語ではこれを短くしたmerchとなります。ですから“I spent too much money on merch this month.”と言えば、「今月は推しのグッズにお金を使いすぎました」という意味になります。
日本語ではある分野に非常に詳しい人を「オタク」と呼びます。この言葉はもともとアニメやSFなどのファン同士が、相手を「お宅」と呼び合っていたことに由来します。この日本語の「オタク」に近い一般的な英語表現にはgeekとnerdの2つがあります。geekは特定の趣味や技術に強い関心を持つ人を表し、nerdは知識や細部を深く追究するタイプの人を表します。両者の意味はかなり重なっていますが、geekは趣味や技術への熱中を、nerdは知識や学問的な細部への没頭をより強く感じさせます。
ではこうした「ハマっている」状態は、どこから医学的なaddiction「依存」になるのでしょうか。何かを行う頻度や費やす時間だけで決まるわけではなく、自分でその行動を調整できなくなるloss of control「コントロールの喪失」や、健康・仕事・学業・人間関係などに問題が生じても続けてしまうcontinuation despite harmful consequences「有害な結果が生じても続けること」が重要になります。
ですから健康的に見える「推し活」についても、“Can you control how much time and money you spend on it?”「それに使う時間やお金を自分で調整できますか」や、“Has it caused any problems in your daily life?”「日常生活に何か問題が生じていますか」と尋ねることが重要になります。
医学で「依存」を表す場合にはdependenceという言葉も使われますが、addictionとdependenceは完全に同じではありません。dependenceは、ある物質に身体が適応し、それを急に中止するとwithdrawal symptoms「離脱症状」が現れる状態を指すことがあります。
現在の診断では、アルコールや薬物によって健康や生活に問題が生じている状態をsubstance use disorder(SUD)「物質使用症」という枠組みで捉えます。アルコールであればalcohol use disorder(AUD)「アルコール使用症」と、そしてオピオイドであればopioid use disorder(OUD)「オピオイド使用症」と表現します。かつて使われていたsubstance abuse「物質乱用」とsubstance dependence「物質依存」という診断上の区分は、DSM-5ではsubstance use disorderに統合されています。
このopioidに関連して、現在の米国で大きな社会問題となっているのがfentanylです。日本語では「フェンタニル」と発音しますが、英語では最初のfenにアクセントを置き、続く母音を弱く発音するため、「フェンタネル」や「フェンタヌル」のように聞こえます。
このfentanylは、手術時の鎮痛や重い痛みの治療にも用いられる非常に強力なsynthetic opioid「合成オピオイド」です。しかし米国では、illegally manufactured fentanyl「違法に製造されたフェンタニル」がheroin「ヘロイン」やcocaine「コカイン」、偽造された錠剤などに本人の知らないうちに混入され、それによるoverdose「過量摂取」が深刻な問題となっています。
fentanylなどのopioidを過量に摂取すると、respiratory depression「呼吸抑制」が起こり、呼吸が極端に遅くなったり、止まったりする可能性があります。このopioid overdoseの作用を一時的に打ち消す薬がnaloxone「ナロキソン」ですが、このnaloxoneには注射剤のほかに、鼻腔内へ噴霧するnasal spray「点鼻スプレー」があり、その代表的な商品名がNARCAN Nasal Sprayです。ちなみにNARCANは英語では「ナーキャン」に近い発音になります。
このnaloxone nasal sprayは、医療従事者だけでなく、適切な説明を受ければ一般の人でも使用できます。San Francisco Police Department(SFPD)では、警察官にintranasal naloxone「経鼻ナロキソン」が配備されており、救急隊が到着する前に警察官が投与して命を救った事例もニュースなどで報道されました。
ここで日本でも問題となっている、いわゆる「ゾンビたばこ」についても確認しておきましょう。これを理解するには、まずvapeとheated tobacco product「加熱式たばこ」を区別する必要があります。vapeは一般に、e-liquid「電子たばこ用の液体」を加熱し、発生したaerosol「エアロゾル」を吸い込む「電子たばこ」、またはそれを吸う行為を表します。これに対してIQOSやPloom TECHなどはheated tobacco products(HTPs)「加熱式たばこ」であり、たばこ葉やその加工品を燃焼させずに加熱する製品です。
日本で「ゾンビたばこ」と呼ばれているものは、cigarette「紙巻きたばこ」でも、IQOSのようなHTPs「加熱式たばこ」でもありません。主にetomidate「エトミデート」を含む液体を電子たばこで加熱して吸引する製品です。そのため英語ではzombie cigarettesと直訳するよりも、etomidate-laced vapesまたはetomidate-laced e-cigarettesと表現するほうが正確です。このlaceには「ひもで結ぶ」という意味のほかに、飲み物や薬物などへ別の物質を「混入する」という意味があり、a drink laced with drugs「薬物を混入された飲み物」のようにも使われます。
etomidateは海外で麻酔導入薬などとして使用されている短時間作用型の薬ですが、日本では医薬品として承認されていません。これを含む電子たばこを乱用すると、意識障害やけいれん、身体のコントロールを失うような症状が現れ、その姿が「ゾンビ」のように見えることから「ゾンビたばこ」と呼ばれるようになりました。英語で説明するなら、“So-called ‘zombie cigarettes’ are actually vapes containing etomidate.”「いわゆる『ゾンビたばこ』は、実際にはエトミデートを含む電子たばこです」と表現するとよいでしょう。
ではここから、依存症の診療で使われる英語表現を見ていきましょう。依存症の評価で重要な表現の一つがcraving「強い欲求・渇望」です。患者さんは“I get a strong craving for alcohol in the evening.”「夕方になると酒を強く飲みたくなります」のように表現します。医療者は“How strong are your cravings on a scale of zero to ten?”「その欲求は0から10でどの程度の強さですか」と尋ねることができます。
cravingと似た表現にurge「衝動」があります。cravingが物質や行動を強く求める感覚であるのに対し、urgeは「今すぐその行動をしたい」という衝動に焦点を置いた表現です。“What do you usually do when you feel the urge to drink?”と尋ねれば、「飲みたい衝動を感じたとき、普段はどうしていますか」という意味になります。
こうしたcravingやurgeを引き起こすきっかけがtriggerです。ストレス、孤独、特定の場所、一緒に飲酒していた友人など、様々なものがtriggerになります。“What tends to trigger your cravings?”「どのようなことがきっかけで強い欲求が起こりますか」と尋ね、患者さんと一緒にtriggerを特定していきます。
urgeへの対処法を表す興味深い英語表現にride out an urgeがあります。ride outは、嵐や困難な時期が過ぎるまで「何とか持ちこたえる」という意味です。cravingは波のように強くなった後、時間とともに弱まることがあるため、“Try to ride out the urge without acting on it.”「行動に移さず、その衝動が過ぎるのを待ってみましょう」のように表現します。そしてこれを心理的な技法を表したものがurge surfingです。強い欲求を無理に消そうとするのではなく、波のように現れては消えていく感覚として観察し、その波に乗りながらやり過ごします。
依存症の経過を説明する際にはrelapse「再発」という表現もよく使われます。一度使用をやめたり減らしたりした後、再び以前の使用パターンに戻ることを意味します。ただし一度だけ使用してしまったlapse「一時的な再使用」と、継続的な状態に戻るrelapseを区別することもあります。“One lapse does not have to become a full relapse.”と伝えれば、「一度の再使用が必ずしも本格的な再発になるわけではありません」という意味になります。
最近では、relapseの代わりにreturn to use「再使用」や、アルコールであればreturn to drinking「飲酒の再開」という、より中立的な表現も使われています。再使用があった場合には、患者さんを責めるのではなく、治療を再開したり、治療方法を見直したりする必要があります。その際には“A return to use does not mean that treatment has failed.”「再使用は治療が失敗したことを意味しません」という表現が役に立ちます。
依存症に関しては、言葉そのものが患者さんへのstigma「負の烙印」を生むことがあります。たとえばaddict「依存者」やalcoholic「アルコール依存者」という表現は、その人全体を依存症という一つの特徴だけで決めつけるように聞こえる場合があります。そのため最近では、a person with a substance use disorderやa person with alcohol use disorderのようなperson-first language「人を先に置く表現」を使うことが推奨されています。
アルコールや薬物を使用しない状態はabstinence「断酒・断薬」と呼ばれます。また日常的にはsobrietyやsoberも使われ、“She has been sober for five years.”と言えば、「彼女は5年間、断酒・断薬を続けています」という意味になります。ただし、すべての患者さんにとって最初から完全なabstinenceだけが唯一の目標になるとは限りません。使用量を減らす、overdoseを防ぐ、生活上の害を減らすといったharm reduction「ハームリダクション」も、回復へ向かう重要な支援となります。
使用を徐々に減らすのではなく、ある日突然すっぱりとやめることをquit cold turkeyまたはgo cold turkeyと表現します。“He quit smoking cold turkey.”と言えば、「彼はたばこをきっぱりとやめました」という意味になります。ただし、長期間の多量飲酒や一部の薬物では、突然中止すると重いwithdrawal symptoms「離脱症状」が起こることがありますので、cold turkeyが常に安全な方法とは限りません。
治療を勧める際にも、“You just need to quit.”「ただやめればよい」と言うだけでは、患者さんの抱えている困難を理解したことにはなりません。motivational interviewing「動機づけ面接」では、“What are some of the good things and not-so-good things about your drinking?”「飲酒について、良いと感じる点と、あまり良くないと感じる点は何ですか」と尋ね、患者さん自身の迷いや価値観を一緒に整理することが求められます。
患者さんがまだ使用をやめる準備ができていない場合にも、その人を治療の外に置くのではなく、meet people where they areという姿勢が大切になります。直訳すれば「その人がいる場所で会う」ですが、実際には「医療者の理想を押しつけるのではなく、患者さんの現在の状況を受け止め、そこから支援を始める」という意味になります。依存症の診療では、患者さんがどこを目指すべきかを一方的に決めるのではなく、まずその人が「今いる場所」から一緒に歩き始めることが大切になるのです。