多田
本日は、生涯有病率が高く自殺のリスク要因にもなる重大な疾患であるうつ病を取り上げ、東邦大学の小山文彦先生にお話をいただきたいと思います。
昨年の12月、日本うつ病学会からわが国の「うつ病診療ガイドライン2025」が上梓されました。このガイドラインは、用いる薬剤の副作用に関する統計学的解析を行っている点も新しいと思います。本日は、ここに書かれていることも含め、より実践的なお話が聞けると期待しています。
まず、うつ病とはどういう疾患でしょうか。
小山
やはり気分の落ち込みですね。抑うつ気分と興味・関心の低下、普段好きなことや以前は楽しめていたことに興味が持てなくなる。この2つが問診の結果、一日中、毎日2週間以上続くようなことがあれば、うつ病を強く疑うということでいいと思います。
その後に食欲で、食べる量よりも、おいしく味わえて食べているか、あるいはぐっすり眠れているか、そういったアメニティも含めた生活習慣のことをお尋ねいただく。あとは、自分を責めたり死にたいような気持ちがないかということも大事ですので、その辺りを問診していきながら重症度がわかってくるということになります。
多田
まず、症状が2週間以上続くということですね。その上で重症度を決めて、診療を進めていくということでしょうか。
小山
そうですね。
多田
次に、診療に際して除外すべきもの、鑑別すべきほかの身体疾患、精神疾患について教えてください。
小山
これは私も若い頃に大きな失敗がありまして、気分が落ち込んでいるのか、ぼんやりされているのかって、ちょっと鑑別の難しい方もいらっしゃいますね。うつ病はあくまでも気分、感情の障害という精神疾患ですが、やはり何らかの脳の機能低下で意識障害を来しているか、その鑑別がまず一番大事だと思います。ですから、古くからある生理機能検査であれば脳波で、やはり意識障害の方は波の幅が広くゆっくりなので、その辺りはやや専門家寄りですけれども、とても大事かと思いました。
脳器質性の疾患ですと、慢性硬膜下血腫、内分泌ですと、先生方もよくご存じの甲状腺機能の低下など、そのような状態で抑うつが出てくる場合もあります。精神科領域だと、このごろはとても多いのですが、職場の上司との関係とか、適応障害の中でのうつ状態と典型的なうつ病というのは、やはり治療的にも少し違いますので、その辺りの鑑別が、我々の中では専門的に関心が強いところだと思います。
多田
うつ病の場合は、何らかの要因がなくなったとしても2週間は続くということですね。
小山
そうですね。先生のおっしゃるとおりです。
多田
そこが大きな鑑別ですね。あとは先生がおっしゃったように、ほかの疾患との鑑別が大事だということは、CTとかMRIも診断には絶対に必要になってくるということでしょうか。
小山
はい。可能であれば必要だと思います。
多田
今お話しいただいたのですが、診断に対して除外すべきもの、鑑別すべき疾患なども含めて、専門医の先生に紹介する前に、まず調べておくべき検査があれば教えてください。
小山
我々が精神科の初診の方に対して血液生化学で行うものとして、一般の肝機能、腎機能や血糖値、それから内分泌ですと甲状腺機能というものを見ていきます。意外とナトリウムの異常で意識障害が起こっている、カリウムの低下で力が入らないというところもあるので、その辺りの血液生化学は、一般的なものと内分泌はやっておくほうがもちろんいいと思います。
多田
電解質バランスも非常に大事だということですね。
小山
とても大事だと思います。
多田
専門医に紹介する場合でも、その辺りをチェックしておいていただくということですね。
小山
はい。そうしていただければ。
多田
実際、開業医の先生のもとに患者さんが来て、専門の先生に紹介する前に、対象の様々な疾患のライフステージにおいて、どのような配慮が必要になってくるでしょうか。
小山
多くは典型的なうつ病に絞るという前提ですと、やはり成人期というか、実年像の間までの20~40代、50代、60代、あと高齢の方もありますが、働き盛り層の方々に対しての配慮ということだと、仕事との両立ですとか、あるいは仕事の毎日のパフォーマンスにもろに影響していきますので、睡眠の良し悪しなど。その辺りで言いますと、特に平成から令和に、この10年の間で全人的回復、あるいはバイオ・サイコ・ソーシャル三位一体な回復というものに対する関心が強くなっていますので、やはり職場の産業保健でのうつ病対策もかなり進歩してきたのが、この10年ぐらいかと思います。
多田
国もメンタルテストみたいなものを取り入れていますね。
小山
そうですね、ストレスチェックですね。
多田
実際、苦しんでいる患者さんが多くいらっしゃると思いますが、そういう方に一般医が関与できるような治療法を教えていただければと思います。
小山
例えば今、メンタルクリニックも都市部ではかなり増えましたけれども、やはり地域で「眠れない」とか「意欲がない」と言っても、すぐに精神科の病院やクリニックというのは敷居が高いと思います。ですから、かかりつけの先生も長い治療関係で、どうもいつもと違うなというのがお話しされていてわかると思うのですが、目印にすると良いのは睡眠の良し悪しというところが基本ではないかと思います。
「一日何時間眠れる?」という聞き方もあると思いますけれども、寝つきがいいか、途中で何度も目が覚めないか、早く起きすぎてしまわないか。この3つをお尋ねになると、どうもいつもと違ってこうなんですと患者さんがおっしゃいますので、不眠に対する先生方の治療というところを進めていただければ助かるかなと思います。
多田
私どもは不眠ということになると、すぐに眠剤ということが頭に出てくるのですけど、その辺りの使い分け、使い方が非常に大事だと思うのですが。
小山
はい、そうなってきましたね。
多田
先生、ご意見はありますか。
小山
これもこの10年のトピックスとして良いと思います。かつてはベンゾジアゼピン系のものがほぼ主流ではありましたけれども、この10年の間に開発されてデビューしたものとしては、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬の2つが代表的かと思います。昼間の仕事とか人間関係の悩みとかが、夜、寝るころになっても頭から離れないというのは、覚醒系が上回っているので眠れないので、覚醒系をうまく下げるためにはオレキシン受容体拮抗薬などがいいと思います。今、国内で4種類目が出たところだと思いますので。
多田
使い勝手がいいみたいですよね。
小山
そうですね。あまり患者さんも副作用はおっしゃらないですね。ベンゾジアゼピンと違って筋弛緩作用がほぼないので、夜、ふと起きたときに転倒するリスクもすごく低いと思います。
多田
なるほど。実際、うつ病の不眠ということも含めて、そういった新しいタイプの眠剤をまず使っていくほうが安全性が高いということになりますね。
小山
そうだと思います。抗うつ剤で使いやすいものを使っても、不眠が取れないと患者さんはやはり元気が出ないですよね。
多田
おっしゃるとおりですね。
今回の「うつ病診療ガイドライン2025」でいろいろな治療法が挙がっているわけですが、薬を投与してもうまくいかない場合、後続療法という新しい概念があるのですけれども、これについてちょっと触れていただければと思います。
小山
今回の日本うつ病学会のガイドラインで出た後続療法は、精神科領域で後続療法と一括りにするのはごく最近のことだと思うのですが、やはり抗うつ薬だけではなくて、アリピプラゾールなどの抗精神病薬との組み合わせによって、より増強させることも含まれているようですね。
あとは認知行動療法ですとか、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激法)ですとか、脳機能に着眼したり、心理に着眼したり、両方を組み合わせていくとか、それを継続することによって再発防止するということだと思うのです。いったん寛解されても、職場に戻ってしばらくするとまた休んでしまう方がけっこういらっしゃる、そこは患者さん自身も一番つらいところだと思いますから、そういった意味で後続療法は今回重要視されて書かれたのだと思います。
多田
今回のガイドラインでは、2つ以上の抗うつ剤を合わせて使わないほうがいいという記載もあったと思いますが、その辺りはいかがでしょうか。
小山
実際に我々が抗うつ薬をずっと歴史的に使う中で、脳内の化学伝達物質、重要なものとしてはセロトニンとノルアドレナリン、それから3番目にドーパミンの意識も必要だと思います。ひらめかないということになると、ドーパミンも関係するのですが、活気がないとか踏み出せないというと、ノルアドレナリンです。不安でしょうがないとか、気になって仕方がない、落ち着かないというのはセロトニン系なので、やはりSSRI、あるいはSNRIを使えば、あとは本当に主流で必要なものはあってももう一つぐらいですね。ですから、3つ重ねるというのはあまり合理的ではないのだろうということだと思います。
多田
最近は、今、先生がおっしゃった3つの化学物質がうまく増えてくるような薬、ボルチオキセチン臭化水素酸塩とかもあるということでしたが、使い勝手はいいのでしょうか。
小山
具体的に今おっしゃっていただいたボルチオキセチン臭化水素酸塩などは、非常に使いやすい薬ではあると思いますが、SNRI・SSRIでいうと各メーカーからいくらでも出ているので、ほかの薬とそう大差はないだろう、ぐらいですね。
多田
うまく患者さんを診ながら使っていくということでしょうか。
小山
本当にそう思いますね。
多田
最後になりますけれども、最近のAIも含めて、従来の問診中心の診断から脱却しまして、客観的なバイオマーカーとかAI技術、こういったものを使った判定の進み方も活発になっていると言われています。デジタル療法と遠隔療法も含めて、先生のお考えを最後にお聞きしたいと思います。
小山
私自身が若手ではないので、その辺もあるのですが、やはりエンジンがかからないという症状は、前頭葉の機能低下ということはほぼコンセンサスが得られていて、そういったところが問診だけではなく、rTMSですとか、経過観察に脳機能画像を使うという辺りは非常に有用になってきたと思います。
コロナのこともあって、遠隔・在宅ということで面談をリモートでやらなければいけない場合もあるかと思います。ただ、見えても聞こえていても手が届かないというリスクはあるので、そういったリスクがあるときには、どこから話されているか、どこでそういうところにリーチできるかということも用意してからでないと、それ相応の適用というものはあると思うのです。
多田
自殺ということも後ろにありますから。
小山
そうですね、念頭に置いた場合は。ただ、悩みごととかだと自分でAIに話を聞いてもらっていますという若い人はたくさんいるので、それの延長線上で面接技術として使えるノウハウは、いくらでも作ろうと思えばできる話だと思います。
多田
本日は深い話から最近のお話までいただいたと思います。どうもありがとうございました。