ドクターサロン

齊藤

本日は認知症について、昭和から令和への変遷ということでうかがいます。よろしくお願いします。

朝田

よろしくお願いします。

齊藤

先生は、認知症の領域にチャレンジしだして、もうどのぐらいになるのですか。

朝田

医者になってすぐなので、40年ちょっとになりました。

齊藤

たいへん長い間診てきて、何か変化は感じますか。

朝田

はい。確かに、当時は診断法すら危なっかしくて、ましてや治療薬など何もなかったです。昨今のように抗体薬が出てきて、本当に進展がある程度遅くなると、ある意味ではものすごく大きな変化です。

齊藤

やってきてよかったなということでしょうか。

朝田

いやいや、この領域はまだまだ道遠しみたいなところですから。

齊藤

まず疫学はどう変わってきたでしょうか。

朝田

わが国では、2012年と2022年の2回、全国調査がありました。この間、高齢者の人口は増えたのです。ところが、認知症の患者さんの数は、462万人だったのがちょっとだけ、450万人程度に減りました。けれども、認知症の予備軍である軽度認知障害、MCIといいますが、これは400万人から560万人程度と増えたというのが、日本のこの10年間の変化です。

齊藤

ここから将来に向かってはどうですか。

朝田

欧米は、10年ぐらい前からこうした変化が言われていて、やはり健康意識、あるいは生活習慣病のコントロールそのものが認知症の予防にもつながるということで、変化があると言われてきたのですが、日本でも、今回の変化を説明するのに、そういう言い方もあります。

齊藤

診断法も変わってきましたか。

朝田

はい。診断法は、つい最近までは、この病気の大元とされるアミロイド、あるいはタウというのがあるのですけれども、これをPETという脳撮影をして見つける。あるいは、背中に針を刺して、脳脊髄液の中にあるそういう物質を測ることによって診断するというのが、従来のオーソドックスでした。

ところが、近年になりまして、末梢の血液、普通に静脈で採血できる血の内容を分析すると、p-tauといいますけれども、タウの一部が正確に測れるようになって、これでほぼ100%近く正確に診断できるという劇的な変化がありました。

齊藤

これは臨床的に使えるものなのですか。

朝田

はい。アメリカでは、つい最近承認されていますから。

齊藤

そうしますと、日本は人間ドックに導入されるということになるのでしょうか。

朝田

おそらくなると思いますね。単にMRIを撮って脳が萎縮しているというよりははるかに精度の高い診断法だと思います。

齊藤

繰り返しの検査も可能ということですね。

朝田

はい。

齊藤

治療も変わってきているのですよね。

朝田

治療については、世界の第2番目にドネペジルという薬が日本で作られました。これは根本治療薬ではなくて、いわば息切れしている馬にムチを入れるような薬で、根本的に治すものではなかった。ところが、ここ2年の間に新たな薬が出てきて、これで本当にその病気の勢いを止めたり、進行を阻止する、そのようなものがようやく出てきました。

齊藤

使用感はどのような感じになっているのですか。

朝田

ものすごく大雑把に言いますと、症状が100悪いとしたら、30程度は短くする。つまり100悪いものを70にする。そして約半年間、病気が進行するのをストップをかけられる。これぐらいにまとめられるでしょうか。

齊藤

患者さんの実感はどうなのですか。

朝田

200あった血圧が120になったとか、250あったコレステロールが150になったとか、そういうわかりやすい指標ではなく、ある意味でコストパフォーマンスがとても悪い病気なのですね。だから本人の自覚も正直に言って当てにならないところがあります。私が思うのは、身近にいる家族が、生活の中で生き生きしてきたとか、このようなことをしなかったのに久しぶりにやっているとか、あるいは、しばらくできなかったこれができたよ、あるいは、あるときふっと思い出したよみたいに言われたら、これはいけそうだなと思って正確なテストをやってみる。そのような現状でしょうか。

齊藤

先ほどの血液マーカーもそういうところに入ってくるのですか。

朝田

おそらく、これは診断の指標でもあるけれども、よくなった指標にもなり得ると思います。

齊藤

抗体医薬にも幾つか違うものがと言われていますね。

朝田

そうですね。現在、レカネマブ、ドナネマブという薬があります。アミロイドという、いわば大きな雪だまと思ってください。これは小さな球がだんだん凝集していって大きな雪だまになるわけだけれども、最初の小さな手のひら大の雪だまをやっつけるのはレカネマブ、大きな雪だまになってしまったものを溶かしていくのがドナネマブ。そういう違いがあると思います。

齊藤

がん治療でもいろいろな抗体医薬併用がありますけれども、認知症でもそういうことが研究されているのでしょうか。

朝田

はい。今、実際に始まっているのですけれども、アミロイドは、火事の火付け役であったとしても、途中でそれを消しても病気の勢いは止まりません。それだけに、これだけでは足りないということは前からわかっていますので、ほかの悪いやつがどんな物質なんだということで、それをやっつける薬。今は世界のこうしたアルツハイマー病の治療薬の主流はそちらに移って、例えば慢性炎症とか、シナプスのガードをするとか、従来のアミロイドやタウから移ってきています。

齊藤

今の治療のターゲットは進行した人ではないですね。

朝田

本当にそのとおりで、残念なところがそこなのですけれども、MMSEという知能テストで20点とか22点とか、ある程度以上の点数を取らないと、残念ながら入れません。

齊藤

早期ということになると、バイオマーカーを使って、もっと早期の人を見つけて治療していくという戦略も考えられるのですか。

朝田

はい。おそらく、これから遺伝的な背景などの解明が進むと、リスクが高いと思われた方は、症状がなくても、今のうちから打っておこうということにだんだんなっていくと思います。実際そのような動きが国内でもすでに研究は始まっています。

齊藤

予防ということも言われていますが、これはどうなのでしょうか。

朝田

予防は大切です。と申しますのは、全国調査でわかっているのですけれども、認知症の人の8割は80歳以上です。そのまた8割は女性なのですよ。ですから、8╳8=64%の人は80歳以上の女性です。残念ながら、遺伝子が規定するようなアルツハイマー病は難しいのだけど、80を過ぎて、いわば生活習慣の総決算としてなるようなアルツハイマーは、特に運動や食生活などの有効性が期待されると実際言われてきました。

齊藤

生活習慣、いわゆる成人病の管理も重要ということですか。血圧、脂質、糖尿病。

朝田

はい。

齊藤

活動性ということも言われますね。

朝田

ものすごく大事ですね。特に社会的な孤立といいますか、対人交流。特にコミュニケーションは何十年も前から、いかに人としゃべることが重要かということを言ってきたのですけれども、日本やアメリカでも最近になってすごく重視されるようになりました。

齊藤

その中で最近言われているのは聴力ですか。

朝田

はい。昨今の研究だと、だいたい中年期からの難聴。お年を召してからではなくて中年期から難聴が続いていることは、今あると言われているリスクの中で最大のものだと言われています。

齊藤

ということで先生、40年間、認知症を診てきて、まだまだ仕事があるということでしょうか。

朝田

そうですね。自分自身は本当に大して進んでいないなと、残念ながら思います。

齊藤

ご自分の認知症予防はどうですか。

朝田

これが大事なところでしてね。

齊藤

どのようなことをされていますか。

朝田

私は実は、だいたい7,000歩毎日歩いて200階段上がっているのですよ。それだけでスポーツジムも何もやっていないのです。

齊藤

なるほど。そういう予防が重要ということですね。

朝田

簡単にできて、今仕事をしていれば、嫌でもやりますので、それくらいのことです。

齊藤

どうもありがとうございました。