多田
本日は、帝京大学医学部整形外科の河野博隆教授に、骨粗鬆症についてお話をいただきたいと思います。わが国は高齢社会を迎え、骨粗鬆症患者さんの推計数は40歳以上で男性410万人、女性1,180万人、合わせて1,590万人と言われています。先生、骨粗鬆症の定義および成因について教えてください。
河野
人間は、生まれてから骨がだんだん成熟し、20代で骨が完成して、強度も量もピークを迎えます。男性も女性も加齢に伴って骨が減っていくわけです。骨が減っていく中で、女性は閉経という人生のイベントを迎えますと、女性ホルモンが急激に減るという、誰でも起こる生理的な現象があります。女性ホルモンが減ると、女性ホルモンの欠乏によって骨量が急速に減少し、その結果、閉経後骨粗鬆症を発症しやすくなることがよく知られています。
昔は閉経後の生存期間が短かったので、大きな問題にはならなかったのですが、女性の平均寿命は87歳になっていて、閉経後から長年積み重なった骨量の減少等もあり、70歳を超える頃から急速に骨折が増えてきます。超高齢社会を迎えた現在の日本では、女性の3~4人に1人は大腿骨近位部骨折を生じてしまう、そういう時代を迎えているという社会的な問題があると考えています。
多田
そのわりには、例えば骨粗鬆症検診の受診率は全国平均で5.5%であるということで、なかなか早期発見につながらないとも言われています。実際には、当事者も含めて、専門以外の先生方の関心が低いということもあると思いますけれども、うまい診断法などについて教えていただけますか。
河野
骨粗鬆症は、このたび、ガイドラインも新しくなりまして、診断法についても非常に細かく規定されています。骨粗鬆症の診断では、診断過程を非常に重視した細かなクライテリアができているのですが、整形外科である私から見ると、まず今の疾患頻度は、先生がおっしゃったように、全国で1,500万人以上の方が骨粗鬆症という病気である。にもかかわらず、病気としての診断を受けて治療を受けている人の割合は20%以下なのです。
これは、診断が難しいのではなくて、骨粗鬆症という病気が大きな問題で、しかも、それは「予防もできる、治療もできる」、または「予防もするべき、治療もするべき」という認識が、医療者の間で非常に不足しているというのが今の問題なのです。
専門家ではなくてもできる簡単な診断として、骨粗鬆症性の骨折があります。これは脆弱性骨折といいまして、高エネルギーではなく日常生活で起こり得る小さなエネルギーで起こってしまう骨折のことをいいます。その中でも大腿骨近位部骨折、先ほど話したように女性の3~4人に1人は生涯の間で起こしてしまう骨折、または、今テレビのCMとかで「いつの間にか骨折」といって、背中が丸くなっていて背骨が潰れてきてしまう、脊椎の椎体の骨折、これらの骨折があれば、それだけで骨粗鬆症と診断できます。
繰り返しますが、椎体の骨折や大腿骨の近位部骨折が起こった方は、それだけでほかの検査はなく、骨粗鬆症という診断が下るということを知っているだけで、多くの骨粗鬆症患者さんの治療介入につながっていくと私は思っています。
多田
大事なことですね。しかも現在、これまでと違って、骨粗鬆症に対しての非常にいい薬が出てきたと。この辺りも我々は知らなくてはいけないと思うのですけれども、ご意見をいただけますか。
河野
この20年、私が医師になってから全く様相が変わってきて、昔はカルシウムとビタミンDなんていう時代がすごく長かったのです。特に日本人は90%以上がビタミンD欠乏と言われています。ビタミンDというのは栄養面からも非常に重要な要素なのですけれども、最近は新たなメカニズムの骨吸収抑制剤、骨形成促進剤などが出てきて、治療介入の効果も明らかになっているのですが、とにかくそれが活かされていないというのが一番の問題です。
検診率が低いというのは、関心が低いということを意味しています。要するに、血圧や、すぐに測れるそのほかのいろいろな検査ももちろんしますが、骨は折れるまでは何も起こらないわけです。折れたときに、その局所の、折れた場所の治療は整形外科でできますけれども、折れるほど弱くなってしまった骨の治療というのはとても時間がかかります。しかも、それは弱くなる前なら予防もできるけれども、全く治療介入を受けていない方が8割以上いる。この状態をとにかく改善していくためには、やはりいろいろな病気を診ているすべての医師が骨粗鬆症に関心を持つということが一番大事なのではないかと思っています。ですので、薬の使い分けとか、そういうことも大事なのですけれども、まずは関心を持っていただく。
一番のキーワードは、大腿骨の頸部骨折、近位部骨折を起こすと、5年生存率は5割を切るということです。5割を切るというのはどういうことか。皆さん、脳血管障害とか循環器で心臓の病気とか、特にがんには非常に関心があると思うのですが、がんになっても、5年生存率は今7割ぐらいあるわけです。大腿骨の近位部骨折を起こすと、その中の半分は5年以内に亡くなる。要するに骨を軽視すれば命に関わるという認識を医療者全体が持つことが最も大事だと思っています。
多田
しかも、生活の質が全く変わってくるということも大事なことですよね。
一方、薬に関しては、実際、多くの薬があるのですけれども、使い勝手が悪いイメージが非常にあるのではないか、つまり副作用の問題ですね。その辺りをどう回避しながらうまく薬を使っていくか、教えていただければと思うのですが。
河野
薬にもいろいろありまして、例えば検診で、骨粗鬆症までは至らないけれども、骨量が減少している、同年代と比べても非常に骨密度が低いとか、そういうことがわかったときに、治療というよりも予防的に栄養状態の改善とか運動療法を入れるとか。骨も材料だけあっても、結局、物理的な刺激、運動がなければ強くなりません。予防的に使うような、栄養改善も含めたカルシウムとかビタミンD製剤という介入もあります。あと、数値として骨が非常に弱いということがわかった、でも折れていない。だから骨折を防ぐために、とにかく予防的に骨量減少を防ごうという介入のやり方もあると思います。
それから、ワンストップといいますけれども、1か所骨が折れた、脆弱性骨折を起こしてしまった方というのは、2度目、3度目の脆弱性骨折をドミノ式に起こしていくのですね。折れるほど弱くなってしまった骨の強度を保つ、強くしなければいけないという強い治療介入が必要な状態もあるので、状況によって介入の仕方が変わってくると思います。
今、最も早期に治療介入の効果が上がるのが骨形成促進剤ですね。副甲状腺ホルモンのテリパラチドと、骨形成に使われるロモソズマブがあります。両方とも使える期間は限られているのですけれども、非常に効果の高い注射製剤で、最も短期間に骨量を増やす効果はあります。とにかく骨折が起こってしまった方は、カルシウムとかビタミンDで経過を見るのではなく、強力な治療介入をしなければいけないと思います。
いろいろな製剤があって、骨形成促進剤も注射でけっこう薬剤費も高くて、通院しなければいけないというデメリットもあるのですけれども、効果が非常にはっきりしていますので、脆弱性骨折を起こしてしまった方は速やかに治療介入をするべきだというのが一番大事な点だと思います。
多田
すごく大事ですね。
河野
それから、最も広く使われていたビスホスホネートという骨吸収抑制剤があります。これもかなり前の話で、20年ぐらい前の話になりますけれども、薬剤の副作用として、顎骨壊死という、歯の顎骨が壊死を起こしてしまうという副作用が問題になりました。
多田
炎症を起こすのですね。
河野
そうですね。確かにこれを起こすとかなり厄介なのですが、ビスホスホネートという薬は骨転移の治療にも使っていたのですよ。そのときは、骨粗鬆症よりもずっと高用量を使うのですね。それで顎骨壊死という副作用が起こってしまったことをきっかけに、顎骨壊死の恐ろしさみたいなことが歯科の領域でも過度に強く言われて、ビスホスホネート製剤の明らかなメリットを打ち消すぐらいデメリットを強調する風潮が広がってしまった時期があったのです。
多田
発症の頻度はそんなに高くないのですよね。
河野
高くないです。骨粗鬆症の治療に関しては、頻度も非常に低いのです。それが骨転移の時と同じ頻度であるかのように流布してしまった。そのステートメントは取り消されたのですけれども、結局、歯科の治療を受けている人は飲んではいけないという時期があったことが骨粗鬆症の治療を遅らせてしまった一つの原因ではないかと思っています。
多田
要は、我々医師自体の関心度をいかに高めるかということと、副作用に対しての危惧をしっかり患者さんと一緒に話しながらフォローしていくことが大事だということですね。
河野
いろいろな副作用という面があるというのが一度センセーショナルに出てしまうと、日本人というのはどうしても物事を定性的に捉えるので、どのぐらい悪いかではなく、良い悪いで分けてしまうのです。例えば福島の原発の事故があって、放射線があるからそれが悪いということになると、福島の子どもたちを外で遊ばせないで、みんなが肥満になってしまって、結局、放射線の被害よりも運動不足の弊害のほうがはるかに大きくなってしまったというように、顎骨壊死の副作用を恐れるあまり、骨粗鬆症治療の介入をしないということが起こってしまったことを非常に残念に感じています。
多田
わかりました。骨粗鬆症そのものをよりよく理解し、積極的な介入がさらに求められているということですね。本日はたいへん大切なお話をいただいたと思います。ありがとうございました。