池脇
本日は先生の専門の心電図の質問をいただきました。QRS-T夾角異常というコメントに関して、どのような状態であり、どう対処したらいいのでしょうかという質問です。
夾角の日本語の意味は、2つの線に挟まれている角度をいうようで、QRSとTで線が描かれて、その間の角度ということですが、どういうことでしょう。
堀中
もともとはベクトル心電図という3次元の心電計があったわけです。背部にも電極があって、3次元で記録することができる。そのQRSの最大ベクトルとTの最大ベクトルの空間的な3次元の位置関係で角度を出していた。これがオリジナルのQRS-T夾角なわけです。
しかしながら、今ベクトル心電図という心電図そのものが日本にはありませんので、これを12誘導に持ってきて、何をやっているかといいますと、皆さんご存じのように左軸偏位とか右軸偏位、肢誘導で平均電気軸を計算しているわけです。一番簡単なのはⅠ誘導でプラスに行くのは左、aVF誘導でプラスに行くのは下ということで、その角度を見て、だいたい0~90度までが正常、0以下が左軸偏位で、90度以上が右軸偏位。そういうことをやっているわけですけれども、それを応用してQRSの角度をまず計算して、次にT波のマックス、最大の方向をどこかというのを求めて、QRSとTの挟む角度をQRS-T夾角というふうに、現状の12誘導心電図ではいっています。
池脇
確かに、心臓はその時々でベクトルが出るわけで、そのベクトルの方向を3次元の心電計を使って調べて、正常と病気の方で比較する中で夾角異常が出てきたというか発展してきたのでしょうか。
堀中
おっしゃるとおりです。この背景には、皆さんご存じでしょうけど、心内膜と心外膜の活動電位持続時間に差があり、心内膜が心外膜に比べて活動電位の持続時間が長いので、心内膜から心外膜側にプラスの電位が向かって来るのがQRSです。それに対して、心外膜のほうが心内膜よりも早く冷めますので、マイナスの電位が遠ざかっていくということでT波が上を向いてくる。通常は同じような方向を向く、正常の心筋ではほぼそういうふうに言われているわけです。しかしながら、そこに活動電位の差があると、QRS-T夾角、つまりT波とQRSが同じ方向を向かない、その差が大きくなっていくということが起こるわけです。
こういった変化が起こる一つの理由としては、肥大心筋で虚血がある場合です。それから不整脈、つまり心筋内の伝導障害が強い場合は、脱分極と再分極のずれが生じる。それが全体的にはQRS-T夾角に反映してくるということになります。
池脇
活動電位や脱分極、再分極とおっしゃいましたけれども、今回の質問でも、脱分極と再分極のベクトルのずれと書いてあります。具体的にはQRSが脱分極、T波が再分極ということですね。
堀中
はい。QRSとTというのは、プラスが向かってくるのとマイナスが遠ざかっていくということで、QRSとTは同じ方向を向くのが正常の心筋なわけですね。それがずれるということは、何かその活動電位の脱分極と再分極の過程に異常が生じるということです。そこで異常が生じればそういった角度がずれていくと考えられるわけです。
池脇
確かに心筋の異常がそういうことに影響するのはそのとおりだなと納得できましたが、12誘導のどこの誘導のQRSとTに注目するのか、見方はあるのでしょうか。
堀中
12誘導心電図でQRS-T夾角の異常を見ている場合には、Ⅰ誘導とaVF誘導の角度でQRSの平均の角度を見ているわけですけど、これが軸変位があるかないかということですね。したがって、例えばⅠ誘導で上を向いていて、aVF誘導で上を向いている。そこにT波が下を向いていたりすると角度がずれているということになりますので、電気軸が、T波とQRSの夾角が開いた、そういうふうに考えていいと思います。
池脇
そうしますと、今回の質問で、QRSの電気軸は一般的だけれども、T波はどうやって求めるのかと質問されています。QRS波もT波もその上か下かとか、そういうので同じように見れるということなのですね。
堀中
おっしゃるとおりです。先生もよくご存じですけど、RからSを引いたものがプラス側で、T波も同じで、陽性部分と陰性部分を引いたものということで方向が決まると考えていいと思います。
池脇
次に、この所見が出たときの臨床的な意義はどう考えたらいいでしょうか。
堀中
活動電位の脱分極と再分極の過程がずれるということなので、何を言っているかというと、要するに均一性が損なわれているということになります。均一性が損なわれているというのはたくさんありまして、例えば心筋が肥大する場合とか虚血になる場合、あとは炎症がある場合、そういったことは、分極のずれもありますし、時間差もずれるので、こういったことでQRS-T夾角が大きくなります。だいたいは前額面で45度ぐらいまでが正常なのですが、90度を超えると、非常に夾角が拡大していて異常なのではないかと言われると考えていいと思います。
池脇
心筋障害に起因して夾角異常が出るということですが、自律神経といった神経系の影響はあるのでしょうか。
堀中
先生のおっしゃるとおりでして、心電図を見る場合にT波の変化というのは非常に自律神経系の影響を受けます。極端な場合は、例えば脳梗塞とか脳出血になると、T波はかなり変わります。日内変動もあると言われていますので、そういった意味では人によってQRS-T夾角がそのような影響でも動くということになりますと、非特異的な変化を反映しているものもかなりの部分であるだろうということで、最近ではQRS-T夾角そのものが診断にとって、異常は異常なのですけれども、果たしてそれを使って臨床的にものすごい意義があるかと言われると、そういう意義が薄れていると考えていいと思います。
池脇
私は人間ドックで毎週のように心電図を見ていますが、自動判定でQRS-Tの夾角異常に遭遇したことがありません。これはある特定の心電計でのコメントということでしょうか。
堀中
はい。やはり非特異的な変化が多すぎるということになると、なかなかこれだけを持ってきて異常だと診断するのは非常に難しい状況になっています。そういった意味では、ある心電計メーカーはもうほとんどQRS-T夾角異常というのを出さない、カットしているものが多いので、日本でも将来的にはそういう方向に行くだろうと考えています。
池脇
ご質問の医師はQRS-Tの夾角異常に遭遇されて、先生がおっしゃるように非特異的であるかもしれないけれども、心筋障害を反映しているということになると、どう対処したらいいでしょうか。
堀中
これはやはり心電図だけではなくて、いろいろな違う検査でスクリーニングを行うべきだと思います。例えば虚血性心疾患や肥大心はある程度エコーをやればわかるし、最近では、虚血性心疾患は造影CTで冠動脈狭窄や閉塞がわかりますので、そういったところで次のステージに行くということで、スクリーニングのツールとしては「何か異常なんだな」ということで、専門家に送っていただければ、ある程度そこからうまくスクリーニングできるのではないかなと思います。すべてが異常かと言われるとなかなか難しいのですけれども、とっかかりとして、正常と異常を区別するという意味では意味はあると考えています。
池脇
基本的なことですが、心筋障害や虚血は若い方よりも高齢の方に多そうですけれども、こういう心電図異常の年齢分布はいかがでしょうか。
堀中
若い人のほうが神経系の影響を受けるので、どうしてもこういったものが出やすいです。つまりT波の変動は若年者のほうが出やすく、高齢者よりは自律神経系の影響を大きく受けるということがあります。若年者でこういった所見が出ることもありますが、むしろ高齢者で出たときにスクリーニングを行うべきだと私自身は考えます。
池脇
本日は、QRS-T夾角異常に関して勉強させていただきました。ありがとうございました。