ドクターサロン

池田

MRSAというのは昔から有名ですけれども、以前ですと院内感染のようなイメージがあったのですが、今の市中感染型のMRSAと、どういうふうに違うのでしょうか。

前田

ここでは従来型のMRSAと呼ばせていただきますけれども、これは1970年から80年代に院内感染の原因菌として拡大して有名になった菌で、基本的には病原性が弱く日和見感染菌と認識されていました。これは、βラクタム系抗菌薬のみならず、多剤耐性傾向が強い菌ではあったのですけれども、近年、それが市中の、健常人にも感染するようなMRSAが増えていて、CA-MRSAと呼ばれています。これらの特徴は、院内感染とか日和見感染という認識ではなくて、2000年代から報告され始めたのですけれども、健常人にも感染する比較的病因性が高い菌です。従来型のMRSAはSCCmec Type Ⅱというのを持つのが特徴だったのですけれども、CA-MRSAはSCCmecのType Ⅳを持っていて、比較的病因性が高く、抗菌薬に対しては従来型よりも感受性が比較的保たれるという特徴があります。

池田

従来型ですと、院内感染ですから院内で流行するというパターンになったと思うのですけれども、それが市中型に変わっていったという考えなのでしょうか。それとも、独立したものが現れて、今市中で広がっているという考えなのでしょうか。

前田

従来型のMRSAとは異なる株が市中で広がっていると認識していただいてよいと思います。従来型のMRSAはSCCmec Type Ⅱを持つのですけれども、市中感染型のMRSAは特徴としてSCCmec Type Ⅳを持つとされていますので、異なるものが新たに生まれてきたというか出てきて、市中で広がっていったと考えられています。

池田

もともとは違う株なのですね。以前ですと院内のものがMRSAで、一般にあるようなものがMSSAという形でしたよね。

前田

そうですね。

池田

そのMSSAからMRSAの市中型に移ったという考えなのでしょうか。

前田

MSSAが市中のMRSAになったということではなくて、市中型のSCCmec Type Ⅳを持つMRSAが新たにどこかから生まれてきたと考えていただいたほうがいいと思います。

池田

なるほど。

それで、市中感染型のMRSAというのは、日和見感染ではなくて、それ自体がいわゆる健常人に感染してしまうというのですけど、どのような症状を呈することが多いのでしょうか。

前田

市中で感染を起こす原因として多いのは、もともと黄色ブドウ球菌自体が皮膚・軟部組織感染を起こしやすい菌なので、市中感染型MRSAでも、皮膚・軟部組織感染が多くみられるという特徴があります。また、健常人に感染を起こして有名になったものとして、壊死性肺炎と呼ばれる重症肺炎を起こすこと等が報告されています。

池田

では臨床症状から見ると、旧来の感染症がちょっと強いかなぐらいの感じなのでしょうか。

前田

そうですね。昔であれば市中の方には、先ほどもお話に出ていたとおり、黄色ブドウ球菌で起こすとすればMSSAが感染を起こしていたと思うのですけれども、市中でもMRSAが皮膚・軟部組織感染症を起こしてきているというかたちになります。

池田

なるほど。質問にもあるのですけど、やはり抗菌薬の選択ということになるのですけれども、従来のMRSAと市中感染型のMRSA、どのようなものを選択すればよいかということなのですけれども。

前田

従来型のMRSAは、βラクタムだけでなくて、多剤耐性傾向が強いという特徴がありますので、効果のある抗菌薬としましては、ご存じのとおり、バンコマイシンやダプトマイシン、リネゾリドといった抗MRSA薬になります。一方で市中感染型のMRSAに関しては、抗MRSA薬はもちろん効果はあるのですけれども、それ以外の、例えばST合剤やミノマイシン、クリンダマイシンのような抗菌薬にも比較的感受性が保たれているという特徴がありますので、そういったものも治療の選択肢にはなってきます。

池田

一部で、いわゆる点滴ではなくて経口とか、そういった薬があるということなのですけれども、例えば通常よく我々が使うようなセフェム系とか、そういったものでとびひなどを治療しようということになるのですけれども、どういった場面で市中感染型MRSAを疑って、どのように検査していくのでしょうか。

前田

私どもの大学の外来の検体を見ても、外来検体の黄色ブドウ球菌が検出されたものの中で3割以上がMRSAという現状があります。なので市中感染において、黄色ブドウ球菌が原因となる中でも、ある程度MRSAが市中でも感染を起こす原因菌として増えてきているという認識を持っていただくのが大切かなと思うのですね。

ただ一方でセフェム系とか、βラクタム系の抗菌薬で治療されることも多いとは思うのですけれども、そういった場合に改善が良くない場合には、細菌検査を出していただいて、薬剤感受性を参考に注意深く診ていただく必要があると思います。

池田

切れ味がちょっと悪いかなとか、反応が鈍いなと感じるときは細菌培養をして、感受性を見るというのはやはり必要なことなのですね。

前田

そうですね。ここまで増えてくるとそういう可能性もありますので、うまくいかないときは検査をしていただいて、感受性を確認していただく必要があると思います。

池田

なるほど。もう一つの質問ですけれども、市中感染型MRSAにはどのように対応すればよいでしょうかという難しい質問なのですけれども。

前田

第一に、ある程度市中感染型MRSA、要は市中にももうMRSAがいるのだという認識を持っていただく必要があると思います。それでやはり市中感染型MRSAで、例えば、全身状態が悪かったり、膿瘍を形成してしまったりなどの場合においては、入院して治療が必要になりますので、従来どおりの抗MRSA薬を点滴して用いる必要があります。

ただ、落ち着いた後は内服へのスイッチも選択肢になってきますので、その場合は、比較的抗菌薬感受性が保たれていることが特徴ですので、感受性や、患者さんの腎機能や薬剤アレルギー等を確認して、内服の抗菌薬にスイッチしていくというストラテジーが良いのではないかと思います。

池田

もう一つの考え方として、対策の一部にいわゆる伝播様式を明らかにしてそれに対策するというのがあると思うのですけれども、そういうことはできているのでしょうか。

前田

CA-MRSAの特徴で、感染拡大しやすかったり定着しやすい因子を持ち合わせているものが報告されています。なので、例えば手指消毒なども今まで以上にやっていかないとさらに広がる可能性がありますので、それも感染拡大を抑える一つの策にはなると思います。

池田

私は皮膚科なのでよく経験するのですけれども、鼻の奥に常在菌化しているブドウ球菌はけっこうありますよね。以前は鼻に軟膏を塗布することによって消滅させようという試みもあったと思うのですけど、そんなことは実際にできるのでしょうか。

前田

鼻の中の除菌はできるとは思うのですが、ここまで市中に広がっていると、鼻だけを消したところで皮膚にはもうすでに保菌していたりもします。ほかから来てしまったりもしますので、なかなかそれだけで対策というかたちにはなりづらいと認識しています。

池田

手指衛生も限度があると思うのです。というのは、子どもたちを見ていますと、じゃれ合ったりして皮膚と皮膚が直接接触したりしていますよね。ああいうことまで、そんなことをするなと言うと生活ができなくなってしまいますよね。ですから、ある意味で市中感染型MRSAの横への伝播というのはなかなか防ぎづらいものなのでしょうか。

前田

市中にMRSAはある程度蔓延してしまっているという認識で、医療従事者としてはそれへの対応を考えていくほうが現実的ではないかなと思っています。市中で広がる分には仕方ない部分もありますが、医療従事者や、病院に入院している患者さんに広めるというのは防ぐべきだと思います。確実に手指衛生を行って次の患者さんを診察するとか、基本的なことはされるべきと思うのですけれども、市中で広がる分を抑えるのはなかなか難しいかなと感じています。

池田

逆に言いますと、市中感染型のMRSAはもう院内に入ってきているのでしょうか。

前田

そうなのです。おっしゃるとおり、市中感染型のMRSAと呼ばれたものがもう院内にも入ってきており、現状では従来型のMRSAは端に追いやられて、院内でも市中感染型MRSAが広まっています。なので、医療従事者から広めるというのは避けるべきだと思いますので、手指衛生をはじめとした伝播の拡大を防ぐ努力は続けるべきだと思っています。

池田

本当に難しい状態になって、先生も研究がたいへんだと思いますけど、ますます頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました。