木村
本日はパーキンソン病の薬物療法のUp To Dateについて教えてくださいという質問です。近年パーキンソン病の患者さんというのは高齢化とともに非常に増えているとうかがっていますけれども、まず初めに近年のパーキンソン病の治療の大きな流れについて、お話をうかがえればと思います。
関
昨今、パーキンソン病は非常に増えています。パーキンソンパンデミックなどという造語も提唱されるほどの勢いで増えています。
どのような患者さんが増えているかというと、高齢の患者さんが非常に増えています。高齢の患者さんが増える中で、一言で言うならば、レボドパ、言ってみればドーパミン主体の治療が見直されているといったのが現在の大きな流れだと思います。一時期はレボドパ回避、レボドパ恐怖症という言葉も登場していた時代もあったのですが、昨今、レボドパが治療の主役となる高齢の患者さんが増えていること、また準主役ともいえるドパミンアゴニストによる副作用などが問題になる中で、近年はレボドパ回帰の流れが顕著となっています。
木村
レボドパ恐怖症とは、何で皆さん恐怖になってしまうのでしょう。
関
昔、基礎実験の結果からレボドパに毒性があるのではないかということが言われていた時代があります。ただ、実臨床においては、レボドパに毒性があるということは今日まで証明されておらず、今はそういったことからもレボドパがもう一度見直されるということに至っています。
木村
なるほど。そうしますと、今、超高齢社会の中で薬物療法のキーワードは、レボドパをいかに持続的に効果的に効かせるかというところになるのですね。先生、その具体的なアプローチ法はどうなるのでしょう。
関
レボドパというのはもともと非常に半減期の短い薬剤ですので、それをいかに持続的に効かせるかという治療戦略となります。そのためのアプローチは大きく2つあります。一つはレボドパの投与経路を工夫する。もう一つはレボドパの薬物動態を最適化するという流れです。
一つ目の投与経路の工夫としては、2016年に日本で承認されたのがレボドパ・カルビドパ配合経腸用液という薬剤です。これは胃ろうを造設しまして、空腸まで入れたチューブを介してゲル状にしたレボドパを直接腸に持続的に投与する薬剤となっています。専用のポンプを用いて16時間持続的に投与することで症状が安定化します。一方で、胃ろうの造設が必要であったり、皮膚やチューブトラブルが課題として挙げられる治療でした。
そんな中、2023年には、レボドパの前駆物質であるホスレボドパ、ホスカルビドパをカニューレを介して24時間持続的に皮下注射する持続皮下注療法が世界に先駆けて日本で承認されました。配合経腸用液は腸に直接流し込んでいたわけですが、持続皮下注療法は皮下注射であるという低侵襲性と、24時間投与できるという点で利点があります。24時間投与することで症状の安定が期待できる治療ですが、一方で、皮下注射であるがゆえに、皮膚トラブルや効きすぎによる精神症状に注意が必要な薬剤となっています。
レボドパを持続的に効かせる2つ目の戦略は、先ほど申し上げましたように、レボドパの薬物動態を最適化するというものです。半減期が短い薬剤ならば、その分解を抑えて長持ちさせてあげようというのがその戦略となっています。具体的にはMAO-B阻害薬、COMT阻害薬といった薬剤がありまして、レボドパの分解を阻害することで効果を長持ちさせる薬となっています。近年は、1日1回飲めば24時間作用する新たなCOMT阻害薬が使用可能となり、その選択肢が広がっています。
木村
随分新しい治療法ができているのですね。でもやっぱり胃ろうを造設してというのはなかなか難しいなと思っていつも見ているのですけれども、皮下注の普及は進んでいるのでしょうか。
関
はい。2023年7月に販売されましたので、約3年が経ちましたが、導入を試みている患者さんは非常に多くなっています。先生がご指摘のように、低侵襲である、穴を開けなくていい、また、副作用が起きたときすぐに止められるといったところが受けて、かなり多くの患者さんがトライをされています。
ただ、先ほど申し上げましたように、皮膚が赤くなったりといった皮膚トラブル、そして効きすぎによる精神症状にはかなり注意が必要な薬剤であるということも同時にこの約3年の経験でわかってきています。
木村
でも、オンオフといったパーキンソン病の治療の大きな課題を克服する、素晴らしい方法ですね。
関
そうですね。パーキンソン病は、罹病期間が長くなってきますと、薬が効くのだけれどもすぐ切れてしまう、効いている時間、切れている時間が繰り返しやってくるようになります。こういうのをウェアリングオフ現象といいますが、それに患者さんは非常に悩みますので、そうしたときに持続的に効かせる、24時間にわたって皮下投与できるというのは大きな利点かと思います。
木村
私ども一般医家が見ていると、パーキンソン病の患者さんというのは、進行されるとそれまでは新しいパーキンソン病の治療をいろいろトライされていても、だんだん進行されて、脳神経内科の専門の先生のところにアクセスできなくなっていって、訪問診療であったり、往診の先生に診療の中心がバトンタッチされていくということが多いのではないかと思います。そういった一般医家の先生が比較的安全に調整できる薬であったり、押さえておくべきポイントがあったら教えてください。
関
冒頭に申し上げましたように、今パーキンソンパンデミックという造語が作られるぐらい患者さんが急増しています。このように急増する中で、神経内科医の力だけではパーキンソンを診ていくことは決してできないと思っています。在宅の先生方、また一般内科、総合診療科の先生方にもパーキンソン病を診ていただく必要があると思っています。
そうしたときに、やはりレボドパの使い方に熟知していただくということが非常に大きなポイントかなと思っています。パーキンソンは、難病でありながら非常にたくさんの薬が開発されています。ただ、やはりその主役はレボドパですので、レボドパの使い方に熟知していただくというのがとても重要なことかなと思っています。
我々専門家としましては、地域の医療にお返しする、もしくは移行していくときに薬を整理整頓してバトンタッチするということも非常に重要なことかなと思っています。ガイドラインを見ますと、どのタイミングで薬を追加するかというのは書いてあっても、やめどきというのはなかなか書いていませんが、我々専門家にとってはどのように整理整頓していくか、その道しるべを示した上で総合診療科や、必ずしもパーキンソン病が専門ではない先生にバトンタッチしていくということも重要な課題かと思っています。
木村
具体的に、レボドパの調整のポイントというのはどんなコツがありますか。
関
パーキンソン病の方は病気が長くなってきますと薬が効いている時間が短くなってきますので、「1回量を増やす」ではなく「内服回数を増やす」ということもポイントかと思います。1回量を増やしますと、血中濃度が上がって、その副作用である吐き気、眠気、幻覚といったものが出やすくなりますし、症状が日内変動を呈する中では、1回の量を増やすというよりは回数を増やすほうが良いこともあります。ちょっと面倒なことでありますけれども、毎食後とかではなく、時間で飲むようにする。このようなことが重要かと思っています。
また、昨今はレボドパとCOMT阻害薬の合剤もあります。同じ1錠であっても、その中にレボドパの分解を阻害する薬が入っているものですので、そういったものへの切り替えを考えてもいいかなと思います。
木村
回数を増やすというのはとても勉強になります。
パーキンソン病の方は、進行してくると嚥下障害が大きな問題になってくると思うのですけれども、例えば、きちんと飲めないので薬の血中濃度が上がらない。そのため嚥下障害が悪化する、結果として薬がきちんと飲めないという悪循環になっていくというようなパターンを臨床で経験することがけっこう多いのですが、そういった患者さんに対して、例えば食事の前に投与したりということも可能な薬なのでしょうか。
関
先生がご指摘のように、薬が飲めない、飲めないとオンになれない、そうするとどんどん悪循環に入ってしまうことがあります。やはり食事を安全に食べるためには、食前に薬を飲ませるということは実臨床でも多く行っています。ただ、食前であっても薬が飲みづらい方に対しては、口腔内崩壊錠に変更したり、また昨今はドーパミン受容体刺激薬の貼り薬、貼付剤も誕生していますので、口から飲まなくても効く貼付剤もうまく使ってあげることが重要かと思っています。
先ほど、高齢の方が増える中でレボドパ主体とは申し上げましたが、主役はレボドパなのですが、ほかの薬もうまくその利点を使ってあげる必要があり、貼り薬はそういった点で独特な利点がある薬だと思っています。
木村
うまく組み合わせて使っていくことが大切ということですね。なるほど。
とは言っても、やはり一般医家の先生たちでできることには限界があるということで、逆に在宅で診ているようなパーキンソンの患者さんで、専門医の先生にもう1回相談すべきタイミングだとか、あるいはこういった症状には気をつけてほしいというのはありますか。
関
一つは、介護負担も非常に増えてしまう幻覚や妄想が出たとき、これはしばしば薬剤の過量投与が原因であったりもしますので、専門医にご紹介いただくタイミングかと思います。
あとは、薬は効くのだけど、先ほど申しましたように効いている時間が短くて、1日の中でいい時間、悪い時間が頻繁に切り替わるようになってしまったとき、こういったときも専門医への紹介があっていいかなと思います。
木村
薬の副作用との戦いでもある病気だと思いますので、そういったところは参考にさせていただきたいなと思います。
最後になりますけれども、先生から一般医家の先生に向けて、パーキンソン病の治療でこれだけは押さえてほしいというメッセージをぜひお願いいたします。
関
繰り返しになりますが、今後パーキンソン病は非常に増えてきます。2050年には全世界の80歳以上の方の50人に1人がパーキンソンを罹患するというデータもあるぐらいですので、ぜひ、パーキンソン病は小難しい病気だと思わず、今後もコモンディジーズの一つになるということを少し頭に置いていただいて、パーキンソン病に興味を持っていただいてパーキンソン病の治療、特にレボドパの使い方に熟知していただきたいというのが私の願いです。
木村
コモンディジーズとしてのパーキンソン病。なかなかハードルは高いかもしれませんけれども、やはり増えてくるということに関しては私たち医師皆が共通の認識として知識を深めていきたいなと思いました。
先生、貴重なお話を本日はありがとうございました。