藤城
「コモンディジーズ診療 昭和から令和への変化」ということで、本日は頭痛を取り上げ、荒木信夫先生にお話をうかがっていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
荒木
よろしくお願いいたします。
藤城
先生、まず頭痛の診断について教えてください。
荒木
頭痛の診断は、国際的に基準が決まっていまして、1988年から国際頭痛分類がされています。片頭痛とか緊張型頭痛というものが多いわけですが、だいたい日本人では緊張型頭痛が20%、片頭痛が8%と言われています。片頭痛がやはり一番患者さんの苦痛が多い疾患でありまして、この診断が問題になるわけですが、診断基準(表1)上、4つの特徴(C)のうち2つ満たせばいいという条件と、もう一つ付随の2項目(D)があって、それを一つ満たせばいいということなのですが、片側で拍動性でかなり強い頭痛であるということと、日常的な動作で悪化する、動くと悪くなるという、その4つの項目のうち2つを満たせば、片頭痛です。その中で悪心、吐き気や嘔吐がある、あるいは光や音に敏感になる、という2つのうちの一つがあればいいということで、第1群の4つのうち2つ、第2群のほうは吐き気や嘔吐、あるいは音過敏、光過敏、どちらかあればいいということで、片頭痛の診断となっています。
藤城
診断基準に関しては大きく変わってきているということはないのですね。
荒木
変わっていないです。
藤城
私自身も片頭痛持ちで、たまに閃輝暗点が出ることがあるのですが、閃輝暗点というもの自体は診断基準に入っているのですか。
荒木
閃輝暗点は、前兆のある片頭痛の診断には入るのですけれども、前兆のない片頭痛がだいたい8割、前兆のある、閃輝暗点がある方が2割ぐらいなのですが、一応両方とも片頭痛でいいということなのですね。
あと、一番多い緊張型頭痛は、片頭痛と裏腹の診断基準(表2)でありまして、両側性で締め付けられるような頭痛で、強さはあまり強くなく、体を動かしても悪くならない。体動によっては増悪しないということのうち2つあればいいということです。あと悪心や嘔吐はないとか、光過敏、音過敏は普通はない。あっても、どちらか一方しかないということで、診断基準は一応そのように決まっています。
藤城
次に治療についてうかがいたいと思います。片頭痛の治療法の変遷はあるのでしょうか。
荒木
だいたい2000年頃からですけれども、脳内のセロトニン受容体の中の特定な部位(1B、1D、1F受容体)に作用するトリプタンというものが使われるようになりまして、急性頭痛発作のときには非常に効く薬で、ずっと使われています。
2020年ぐらいからですから、令和になってから片頭痛の予防療法が行われるようになってきました。それは研究が進んで、片頭痛の病態にCGRPというペプチドが関係していることがわかりまして、そのCGRPに対する抗体、あるいはCGRP受容体というものがあるのですけれども、それに対する抗体を使うという治療法です。
CGRPというのは、Calcitonin Gene Related Peptideの略なのですが、37個のアミノ酸から成っていまして、片頭痛に関係する三叉神経に存在している。この物質を投与すると発作が起きるということも確認されていまして、片頭痛にはCGRPが深く関係しているということがわかりました。CGRPに対する抗体、あるいは受容体に対する抗体を投与することによって、発作回数をかなり減らすことができるようになりました。それまでは仕事を休まなくてはいけなかった患者さん方が、ほとんど休まなくてもいいような方も半数ぐらい出てくるということで、ひと月に1回注射は必要なのですけれども、病院にはひと月に1回行かれるだけです。あるいは今、自己注射もできるようになってきていますので、自宅でも行える治療です。
そのようにCGRPに関する薬が出てきて治療が変わったわけですが、実は最近、CGRPに拮抗する薬剤であるgepantというものが日本でも承認されまして、2025年12月頃から使えるようになってきています。これは片頭痛の発作のときにも効きますし、発作の予防効果もある。経口薬でもあるということで、いろいろな治療法が出てきまして、片頭痛の治療も急性期の治療と予防療法ということで新たな展開が出てきています。またこれからどちらがいいのかということがわかってくるかと思います。
藤城
平成にかけては発作に対する治療が行われていたのが、令和に入ってからは予防もできるようになってきた。抗体薬ということで注射薬であったのですが、最近出てきたCGRPに対する拮抗薬に関しては経口もあるということで、予防から発作までカバーするということで、治療の選択肢が広がったと思います。
予防の適用は、どういう方に対して行われていますでしょうか。私もたまに起こりますが、じっとしていますと自然によくなるので、薬を飲まないことがほとんどですけれども、予防の適用を教えていただけますか。
荒木
実は保険適用になるには、今まで使われていたβ遮断薬とか抗けいれん薬という予防薬がありまして、ほかにも2種類(カルシウム拮抗薬、抗うつ薬など)あるのですが、その予防薬を使って、2剤効かなかったら使うという足かせはあるのです。ただ、今、頭痛を専門にしている先生方からは、もうそういうことをしないで最初から使ってあげたほうが患者さんにはいいのではないかという意見は出ていますが、まだ保険適用にはほかの予防薬が無効な場合に抗体薬の投与が認められています。一番多いのは抗けいれん薬のバルプロ酸とか、βブロッカーのプロプラノロールとか、そういうものを使っても無効である方に使っていいというしばりはあります。
藤城
わかりました。その辺りも今後クリアになってくるところですね。
荒木
そうですね。
藤城
続いて、群発頭痛についても教えていただけますか。
荒木
群発頭痛というのは、片頭痛の20分の1から50分の1ぐらいの頻度ですが、すごく有効な治療法があります。トリプタンの中のスマトリプタンという皮下注射の製剤があるのですが、これを使うと、だいたい病院で打つと、もう目の前で5~10分ぐらいで効いてきて、頭痛が改善することがある非常に有効な薬です。
群発頭痛というのは患者さんの数は少ないのですけれども、片頭痛より極めて強い頭痛で、痛くて転げ回るぐらいなのですが、必ず一側だけです。これが片頭痛との違いで、片頭痛は両側の人もいるのですけど、これは必ず一側です。頭痛の側に付随症状が必ずあるのですね。目が充血する、涙が出る、額に汗をかくとか、そういう自律神経の症状がありまして、あともう一つ、非常に落ち着きのない、興奮した様子が出ることが特徴です(診断基準は表3)。このどちらかがあればいいのですが、三叉神経・自律神経性頭痛という大きな枠組みの中に入る頭痛なのです。
もう一つの有効な治療法があります。スマトリプタンの皮下注射とともに、酸素を1分間に7L吸入すると、これでも10~15分で頭痛が消えると言われています。最近は在宅酸素療法の機械が発達しまして、7Lまで出せる機械が出ています。それは保険適用にもなっていまして、自分の家で治療ができる。特に群発頭痛は夜間に強い発作が、寝てから起きることも多いので、在宅酸素療法は、酸素を吸っているうちに頭痛が消えていくということで患者さんは楽になったとよく言われています。酸素療法は昭和からあったのですけれども、自宅でできるようになったのは平成で、令和まで続いているということです。
藤城
在宅酸素療法が今行われるようになってきていますので、群発頭痛で夜間救急外来にかかるという患者さんも極めて少なくなっているような状況なのでしょうか。
荒木
そうですね。スマトリプタンの自己注射も一応認められているので、頭痛発作の多い方、特に毎晩のような方はスマトリプタンを自己注射、あるいは在宅酸素療法ということでやっています。
藤城
最後に、薬剤の使用過多による頭痛(MOH)についても教えていただけますか。
荒木
頭痛治療の盲点といえるような頭痛なのですが、薬剤の使用過多による頭痛、いわゆる薬物乱用頭痛ともいいます。もともとが片頭痛あるいは緊張型頭痛で、鎮痛剤とかトリプタンの使いすぎで起きる頭痛ですね。鎮痛剤ですと、だいたい3か月以上の間、月に15日以上服用していくと、なってしまいます。トリプタン製剤ですと、3か月以上、月に10日以上使用していると、薬物乱用頭痛になってしまうということで非常に厄介な頭痛です。
頭痛の治療薬で頭痛になるという非常にたいへんな事態なのですが、今まではその原因になっている薬剤をまず中止していただいて、これがたいへんなのです。トリプタンの過剰投与でMOHになっている人は鎮痛剤で治すとか、あるいは先ほど申し上げましたバルプロ酸とかβブロッカーなどの予防薬を使って治療するというのが常道だったのですが、実はこのCGRPの関連の抗体薬が非常に有効だということがわかってきていまして、薬剤の使用過多による頭痛もCGRP関連の抗体薬で治療すると、非常に良くなる方が多いというのが今わかってきました。大きく変わってきているところですね。
藤城
どうもありがとうございました。