大西
内村先生、睡眠障害、特に不眠症について、その対応を教えていただきたいと思います。
内村
よろしくお願いいたします。
大西
不眠症の患者さんというのは、以前と比べて、最近増えてきているのでしょうか。
内村
24時間社会になって、夜も明るい環境の中で眠らなくてはいけない、あるいは、ストレス社会で交感神経が優位に立ってなかなか眠れないとか、高齢化社会で早く目が覚めて、それからなかなか寝られないとか、様々な環境の変化や時代の今の流れによって、日本人の20~30%ぐらい、夜の睡眠に問題を持っている方がいらっしゃると言われています。
夜の睡眠が障害されたのが不眠で、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒というタイプがありますが、その中で、夜の睡眠に問題があるために、例えば我慢できないような眠気が昼間襲ってくるとか、体がすごく疲れやすい、イライラする、気分が落ち込むとか、そういう何らかの昼間の機能障害、QOLの低下があって、初めて不眠症という疾患として診断されます。
不眠を訴える方は20~30%いらっしゃるのですけど、夜の不眠のために昼間の機能障害が起こってしまったという不眠症の割合は、日本では10%ぐらいと言われていまして、最近増えてきているのは間違いないと思います。
大西
薬物療法を始める前に睡眠衛生指導が重要かと思うのですけれども、どのようにしたらよいか教えていただけますか。
内村
やはり睡眠衛生指導を最初は患者さんにきちんと説明する必要があります。大事なことは、朝一定の時間に起きて、昼間はできるだけ体を動かして、お昼寝とかはあまり長くしすぎないようにする。昼間の2~4時ぐらいが一番眠たくなる時間帯ですけれども、30分以内にして、夜も寝る時間をだいたい決めることが望ましいです。起きる時刻、そして昼間の活動性を上げて、夜はできるだけ一定の時間に寝るというような規則正しい生活が大事です。
その中で、最近は睡眠環境が大事だということが言われていまして、まずは明るさです。最近はスマホやゲーム機などのブルーライトが夜の睡眠を促すメラトニンというホルモンを抑制して睡眠を妨げますので、床に就く1~2時間前からはブルーライトを放つような光はできるだけ控えていく。あるいは、LEDを使っている家庭が多いと思いますが、LEDもブルーライトがかなり含まれていますので、LEDを使っているご家庭は、夕食後は少し照明を落としていくなどして、暗い環境をつくるということが大事です。
あとは、静かな環境ですね。騒がしいとなかなか眠れないし、寝ても夜中に目が覚めますから。WHOでは40デシベル以下にしましょうと言われているのですが、40デシベルというのは図書館ぐらいの静けさを保つということです。
それと、室温が大事になってきます。冬はすごく寒くなりますけれども、寒すぎず暑すぎずということで、一般的には、冬は19度以上、夏は27度以下ぐらいに室温を保ちましょうということが言われています。湿度に関しては、50~60%ぐらいに保つということで、冬は湿度がかなり低くて眠りづらかったりしますので、そのくらいの環境ですね。
明るさ、静けさ、室温、湿度。この4つが大事だということで、できるだけそこを指導します。
また、嗜好品についても少し注意が必要です。アルコール、カフェイン、ニコチンの3つが睡眠に影響を及ぼします。
アルコールは入眠を促すのですけど、だいたい飲酒して3~4時間経ちますと、アルデヒドという覚醒物質に代謝されて目が覚めやすくなるし、また眠ったとしても睡眠が浅くなりますから、寝酒はできるだけ控えて、晩酌で適度のアルコールにとどめるということが推奨されています。
適度値は、純アルコールが20gぐらいと一般に言われています。500㏄のビールだったら2本ぐらい、日本酒だったら1~2合ぐらいの量です。そのくらいが適度だということで、あまり飲み過ぎない程度で、寝る直前のアルコールは控えましょうということがエビデンスによって示されています。
カフェインも睡眠を妨げますから、夕食まではある程度お茶を飲んでもかまわないですが、夕食後はお茶やコーヒーなどのカフェイン類は飲まない。ニコチンも睡眠を妨げますので、寝る前からは喫煙を控えるなど睡眠に悪影響を与える嗜好品をできるだけ控える必要があります。
ですから、睡眠の環境を整え、嗜好品をある程度制限して、昼間はできるだけ体を動かして、寝る前はリラックスする。リラックスするために例えば音楽を聞くとか、あるいはアロマ(香り)、軽い運動、ストレッチとかヨガとか、副交感神経を優位にするようなことがやはり眠りには大事になってきます。
眠ろう、眠ろうと意識すると、かえって脳が興奮して眠れませんから、あまり眠ろうと意識しないということが大事です。
大西
薬物療法の進め方を教えていただけますか。
内村
睡眠衛生指導を行って、それでも寝られない方というのは、過度のストレスとか、例えば交代勤務をしているとか、様々な要因があります。睡眠衛生指導だけでは眠れないような方の場合には、薬を服用することによって適切な睡眠を取ったほうが、生活習慣病やうつ病など精神疾患の予防にもつながりますし、何よりも昼間のQOLを向上させるためには確実に睡眠を取ったほうがいいので、患者さんに睡眠薬の効果と副作用をきちんと説明して、飲んでいただくということが大事になってきます。
患者さんには睡眠薬というのはとんでもなく怖いものだみたいなイメージがあって、よく言われるのが、一度飲みだしたら一生飲まなくてはいけないとか、どんどん量が増えていく、認知症になるんじゃないか、たくさん飲むと死ぬんじゃないかとか、そういう副作用のイメージが強すぎてきちんと飲んでくれない方が多いのですが、睡眠薬も今は随分変わってきています。
最新の睡眠薬は依存性もほとんどありませんし、認知機能を低下させたり、転倒を起こしたりというのも少なくなってきていますので、そういう意味では、最近の睡眠薬は不眠症が治ったらやめることができますよと説明します。飲んでいるときも転倒したり、記憶が飛んだり、朝に持ち越して起きられないとか、そういう副作用も、医師から適切な薬を出してもらえれば心配はいりませんよというお話をします。
患者さんに納得してもらって睡眠薬を服用していただかないと、勝手に薬の量を減らしたり、今日はもう飲むのをやめておこうとか、そういうことを患者さんがされると、せっかくの薬の効果も発揮できなくなりますし、かえって副作用の原因になってきますので、医師との信頼関係がきちんとあって、薬の説明を十分していただくことが前提になると思います。
大西
薬物療法も進歩してきたので、それをうまく使いこなしながら、患者さんと治療していくということですね。
内村
そうですね。だから患者さんには、睡眠薬を「飲まされる」のではなくて、睡眠薬を上手に利用して、睡眠が適切に取れるようにしましょう、そのことが昼間のパフォーマンスを上げることにもつながるし、健康で、毎日生き生きとした生活をおくるために、睡眠薬を上手に使っていきましょうというようなお話をさせていただきます。
大西
どうもありがとうございました。