大西
遠隔栄養指導というのはどういったものか教えていただけますか。
矢作
電話や情報通信機器を使って、管理栄養士さんが食事・栄養の指導を行う仕組みになっています。生活習慣病の管理ととても相性がいいというのが特徴で、患者さんがクリニックに来なくても実施できるのですけど、通常は患者さんにクリニックにお越しいただいて、管理栄養士さんにリモートで入っていただくという形が多いかなと思います。
大西
栄養指導を遠隔にする意義について教えていただけますか。
矢作
栄養指導を実施してくれる管理栄養士さんは大きな病院とか糖尿病専門クリニックのようなところにしかいらっしゃらなくて、実はほとんどの一般内科のクリニックでは管理栄養士さんが不在という現実があります。その中で、リモートでつなぐことで広くいろいろな方に栄養指導をしていただける。そこが一番大きなメリットかなと思います。
大西
遠隔だと、対面より効果が落ちるのではないかという不安を抱く方がいるかもしれませんが、その辺りはいかがですか。
矢作
その辺りもノウハウが蓄積されてきていまして、少なくとも研究としてしっかり行われたものについては、対面と差がなく効果が出ているという論文がたくさん出ています。
大西
診療報酬制度としても評価はされているのでしょうか。
矢作
はい。2020年の診療報酬改定で初めてこの仕組みが導入されまして、その後2022年から、初回からリモートの指導で算定可能というふうに拡張されまして、初回が225点、2回目以降は170点となっています。
大西
遠隔栄養指導というのは広がってきているのでしょうか。
矢作
ところが、そこがそうでもなくて、まだまだこれからというのが実情です。厚生労働省の集計では、2024年度に対面で実施された外注の外来栄養指導が8,339件だったのに対して、遠隔のほうはなんと85件しかなかったという数字が示されていまして、まだまだこれからというところです。
大西
85件というと非常に少ないと思うのですが。
矢作
そうですね。1%程度です。
大西
その原因はいかがでしょうか。
矢作
構造的な理由がありまして、一つには栄養指導の質を担保するということなのですけれども、実施できるのは日本栄養士会傘下の都道府県栄養士会直営の栄養ケア・ステーションにオーダーしないといけないというところがあります。逆に、そうでない認定栄養ケア・ステーションもたくさんあるのですが、そういったところでは保険外になってしまうというところがあります。それで、直営の栄養ケア・ステーションにオーダーする方法がちょっとわかりにくいといったことがあって、それを行いやすくする目的で、私ども日本臨床栄養協会で「栄養指導せん発行WEBツール」という新しいツールを開発させていただいています。
大西
WEBツールの具体的なことを教えていただけますか。
矢作
こちらは、医師が簡単にブラウザから1、2分で必要事項を入力して、都道府県の栄養ケア・ステーションにオーダーできるようにと作ってあります。そういったことが可能になりますと、わざわざ管理栄養士さんを自分のクリニックで雇用しなくても、手軽にオーダーできるということになります。
大西
現場で導入するメリットにはどういったものがありますか。
矢作
クリニックサイドとしては診療の質を高められるというところです。また、日本臨床栄養協会では、もともとは会員の先生方向けの仕組みとして始まったのですが、現在は非会員の先生方にも無償提供させていただいています。そういうキャンペーンをやっていますので、ノーコストでそれを導入できます。もちろん1件当たりのコストを栄養ケア・ステーション側にかなりお支払いする形にはなりますので、大きな利益が上がるということは残念ながら難しいのですけれども、逆にマイナスが発生することもないというところで、質の高い栄養指導をしっかりとローコストで行えるというのは大きなメリットと考えています。
大西
実際の運用の流れはどのようになっているのでしょうか。
矢作
まずクリニック側で栄養ケア・ステーションと契約をしていただき、その後、患者さんごとにWEBから入力していっていただき、管理栄養士の指導後、栄養CSに業務委託料をお支払いすると同時に、レセプト請求を行うという流れになっています。
大西
患者さんにとってはどんな利点がありますか。
矢作
患者さんにとっては、やはり管理栄養士さんは栄養アセスメントをしっかりやってくださいます。自分の食生活の問題点を、ドクターとのお話の中、あるいはご自身でなかなか把握できていない方というのはたくさんいらっしゃるのですけれども、管理栄養士さんはその辺りの評価のプロですので、的確に、「こういったところに問題点があるんじゃないか」ということをきちんと把握して教えてくれますので、客観的な栄養アセスメントに基づいて、さらにこういうふうにしましょうというアクションを作っていく。そういったところが非常に重要です。栄養というのは、生活習慣病すべての治療の基本ですし、健康づくりの大元ですので、そういったところがしっかりできるということは非常に大きいと思っています。
大西
その具体的な成果は、出てきているのでしょうか。
矢作
その辺りもまだまだこれからというところで、幾つか単発的な実施例というのは論文報告等あるのですけれども、全国的に展開していくのはまさにこれからという状況だと思います。
大西
今後の栄養指導の未来はどんな感じになりますか。
矢作
遠隔医療といいますと、ロボット手術で遠隔の外科手術とか華やかな部分が強調されやすいのですけど、そういったことにも当然夢があると思うのですが、実はそういう大がかりなものでないところにこそネットワークでつなぐメリットが大きいのではないかと思っています。例えば手術ですと、ちょっとでも通信が遮断されたらたいへんな事故が起こるリスクがあるわけですけど、栄養指導のようなことですと、仮に途中で1、2分中断したからといって事故を起こすということもありません。そういうフットワークの良い、カジュアルなものからむしろこういうテクノロジーをしっかり使っていくほうが理にかなっているのではないのかなと個人的には思っています。
大西
先生は実際の外来でどのようにこれを活用されていますか。
矢作
私自身は大病院側の人間ですので、自分のところの栄養士さんたちにお願いするということがすごく便利にできているのですけれども、そういったことをどこの診療所でもできるようにすると。標準化医療というと言い過ぎですけれども、そういったことをしっかりとできるようにするというのは、やはり栄養療法というのは健康づくりの大元ですので、実は非常に重要なことなのではないかなと思います。
大西
先生は栃木県の自治医科大学で研究されていますけれども、へき地とのネットワークみたいなのはどうなのですか。
矢作
まさにこの4月からうちの自治医科大学卒業の医局員が今度派遣されることになっていまして、そういったところにこそこの仕組みを広めつつ、地域住民の方の健康管理を頑張ってほしいなと期待しています。
大西
介護とかほかのいろいろな面でも使われるようになっていると思うのですが、その辺りの現状について教えていただけたらと思います。
矢作
どうしても介護となると対象が高齢者になって、一般的にはそうすると情報通信機器との相性はよくないよねという話になって、そこで思考停止に陥りがちなのですが、現実はスマートフォンやタブレットを使いこなしているご高齢の方もたくさんいらっしゃいますし、そういったところにどんどん、例えばパーソナルヘルスレコードとかそういったものも含めて浸透させていくことが大事ではないかなと思っています。
大西
介護以外にも期待できる分野はありますか。
矢作
介護以外では、いわゆる保健指導ですとか、未病の方々にも非常にこの仕組みは親和性が高いですし、あとはもちろん産業衛生といいますか、産業医の先生方にもご活用いただきたいなと思います。
大西
諸外国の状況はどうなのでしょうか。
矢作
私もそこまで詳しくないのですけれども、管理栄養士さんみたいな職種が医療職として確立されている国は幾つもあると思うのですね。日本でも管理栄養士さんが医療職というふうになったのは比較的最近で、この何年かぐらいなのですね。ですので、もっともっと医療の中で一番大事な食事の部分に、管理栄養士さんが前面に立ってイニシアティブをとっていただくというのがこれからの未来像かなと思います。
大西
ありがとうございました。